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古キョン
#初恋電車/:04



土曜日。

俺は朝やけに早く目が覚めた。まぁ遠足前の子供みたいな感じだろうか、というか浮かれ過ぎだということはとうの昔から自覚している。

(……仕方ないと思う、こればっかりは。)

俺は顔を洗ったり歯磨きもいつもより丁寧にしたり、新しく買った半袖のチェックのシャツにタンクトップ、深緑色の七分丈のカーゴパンツ…といった若干の気合いも入りつつ身支度を整え、家をあとにした。






集合場所となっているのは俺が毎朝利用している駅。
緊張からか、かなり早歩きになっていたようで集合時間の15分前に到着してしまった。
駅前の広場の時計台に背を預けて、やたら晴れわたっている空を見上げる。

約束の日は8月に入って最初の土曜日だ。高校は長期休業に入っていたので、学生の俺はいわゆる夏休みに突入していが、今さらだが会社員の古泉さんは忙しいのではないだろうか。



…そう、だよ。

今まで古泉さんと一緒にいられることがうれしくて考慮するのを忘れていたが、女の子ならまだしも俺みたいな男子高校生を相手に、わざわざ時間を割いてくれるなんて面倒なことこの上ないよな。

もしも俺が同じ立場だったなら、勘弁してほしいところだ。
そう考えると背筋がサーッと冷たくなったような気がした。


俺がひとりで青ざめていると、真っ白でキラキラとした外車のような高級さを漂わせる一台の車が近くに停まる。

そこから出てきた人物は。


「古泉、さん」

「すみません、お待たせしてしまいましたか?」


普段のかっちりしたスーツ姿ではなく、クールビズ仕様なのか薄いピンク色のシャツに深い紺色の涼しげなズボンといった、古泉さんだから似合う大人の雰囲気がある服装だった。

「いえ、俺も今来たとこです」


ラフすぎない格好がまた古泉さんの素敵要素を最大限に引き出している。
それはよかったです、とにっこり微笑まれるともうだめだった。

あぁ…このめまいは暑さのせいではなさそうだ。



「では、参りましょうか」

今日は少し遠出しますが構いませんか?と古泉さんに問われたが、そんなの答えは決まっている。

「はいっ」



こちらへ、と古泉さんに車まで案内されて、予想通り高級外車なその車に乗り込んだ。
…古泉さんの友人とやらは相当な金持ちなんだろうな、と余計な詮索までしながら。






「そういえば」


高速に入った辺りで古泉さんが話しかけてきた。

「お迎えにあがったとき、あなたが浮かない顔をされてらっしゃったいましたが…」


大丈夫でしたか?、と古泉さんに尋ねられた。
いつも通りの爽やかスマイルがこのときだけ、少しだけ寂しそうに見えたのは俺の気のせいだろうか。






「さぁ、着きましたよ」

わざわざ俺が座っていた助手席までドアを開けてくれる古泉さん。まるで執事か何かのようだと思った。


そして俺は降り立って見渡した景色を見て、息を飲んだ。

フェリー…?

なんだこの大きさ。
いや大きさだけでなく、白を基調とした清潔さも漂わせる豪華な船。もしかしなくてもこれは俗に言う、豪華客船とかではないだろうか。

俺との食事のためにわざわざ…?



さらに中へ入ると予想を遥かに上回る内装のきらびやかさに驚くばかりだ。
つうか俺、こんな格好でよかったのか…?


「ええ、気にせずとも良いですよ。今日は僕達だけの貸し切りですから」


まじでか?!
どおりでさっきから俺ら以外見当たらないと思った。
つうか絶対ありえない金額だろこんなの!古泉さんて、普通の会社員じゃなかったのか?


食事用の個室に案内されたとき、古泉さんに聞いてみた。


*続く*

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