しあわせの方程式
小さな掌の幸福



「あー……」
 メールの受信を知らせる携帯を、私はポケットから取り出し、気付いた。
 付けていたストラップが、取れている。紐の部分は付いているけど、そこから先の、肝心な飾りの部分がない。
「どうしたの?」
 固まったままの私を、空が覗き込んでくる。
 言葉ではなく、携帯ストラップの部分を、空に見せた。
「あちゃー、いつの間に?」
「分かんない。ポケットに入れてたのが、良くなかったかなー」
 買わなきゃだ。私は小さく溜め息を吐いた。
 じゃらじゃら無駄に付けるのは嫌いだけど、一つくらいは付いていた方がいい。……バックの中から取り出したりする時に、引っ張れて楽だから。
 もしかすると、それが原因でストラップの繋ぎ目が、弱くなってしまったのかも知れないけど。
「じゃあさ、お揃いの買わない?」
「え?」
 そう、空は嬉しそうに笑った。






 ――そうして、今に至る。
「あのー……空さん?」
「何ー?」
「本当にそれ、買う気?」
 答えは分かりきってはいるが、恐る恐る尋ねる。
 きっと自分は、何とも言えない表情をしているのだろう。
「勿論」
 空が買おうとしているストラップ。見るからに、明らかにペアのストラップだ。しかもハート。
 そんなのを自分が持つのかと考えると、顔から火が出そうになる。
 友人からなんてからかわれるかも、分かったものではない。……いや、分かりきってる。
「もうちょっと、違うのにしない? ね?」
「やだ……?」
「やだっていうか……」
「唯は、俺とお揃いはいや……?」
 空が、しょぼん、と項垂れる。まるで、尻尾がへにゃりと垂れていそうだ。
 空の方が身長は高い筈なのに、子犬が上目遣いに見上げてくるように見えるのは何故だろう?
「いや、お揃いが嫌っていうか……」
 しどろもどろに答える私、それでもそれが拒絶の言葉ではないのを聞き、空の表情が明るくなる。
「じゃあ、いいよね」
 そうして、さっさとレジへと向かってしまった。
 切り替えが早い。あんなに泣きそうな顔をしていたのに。
「あ、ちょ……!」
 慌てても無駄だった。
 素早い空を、私は唖然として見ているしかなかった。





「はい」
 空の手から私の掌に、ころんと落とされるストラップ。
 ハートのそれは、明らかに二つ繋ぎ合わせるペアのものだと分かる。
 ――恥ずかしい。
 私の気持ちにお構い無く、空は私の携帯にストラップを付けてくれた。
 不器用で、なかなか上手く付けられない癖に、それでも嬉しそうに。こっちまでつられて笑みが零れそうになるくらい、純粋で真っ直ぐな笑顔。
 ――そんな空をみて、私は諦めたように苦笑を漏らした。
(……まぁ、いっか)
 暫くは、友人の前では携帯をいじれなくなる。
 それでも、きっとそのうち慣れてしまうだろう。空が隣にいることが、照れ臭くても、当たり前になったように。







END

2010.5.21




5/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!