永遠の雪を抱いて眠れ
8 * それは、幾度目のことだっただろうか。そうして、その日もやはり大輔は彼女に助けられた。 流石に毎度のことに呆れたのか、彼女の方から言葉をかけてきた。 「貴方も懲りない人ですね。非力な貴方に何が出来るのというのです?」 声をかけられたことに一瞬喜びを感じたものの、それはすぐに霧散する。 ――非力。その端的で、それでも適確な言葉に、大輔は唇を噛み締める。 彼女に幾度となく助けられてきただけに、否定することは出来ない。 しかし、大輔とて警察官としてそれなりの訓練は積んできている。大輔に言わせれば、自分が弱いのではない。彼女が強く、場数を踏んでいるのだ。 (否、分かってる) 言い訳じみた自分の思考に、無意識の内で大輔は力なく首を振った。 それは見苦しい言い訳でしかない。一般的な警察官のレベルであろうがなかろうが、大輔がこのような組織に挑むだけの力はないというのは事実だ。挑むにはあまりに不慣れで、脆弱すぎるとも。 彼女の言葉は、嫌味でもなければ罵倒でもない。容赦はないが、事実を述べているだけであって、尚更その言葉は辛く感じられる。 「それ、でも」 それを認めるわけにはいかなかった。 俯きそうになる顔を上げ、彼女を真っ直ぐに見据える。 「それでも、私は、この荒れた社会をどうにかしたいんだ」 そう、それでもこの想いだけは、否定する訳にはいかない。自分には何も出来ないと認めることだけは出来ない。彼女の言葉に、胸を締め付けられながらも、なんとか答える。 それは、大輔の中で譲れない想い。その為に、大輔は警察官になった。 法律が法律として、機能しなくなったのは、いつからなのだろう。否、いつからかなど分かり切っている。科学技術が発展し、人の欲望が際限なく溢れ始めてからだ。科学者も、それに利を得ている人間も、法律を無視しだした。己の欲求のままに動く彼らに、道徳や倫理感など求めるだけ無駄。ならば、どうなるかなど明白だ。 その結果、法は法の意味をもたず、ただ社会は荒れていく。そして、尚更、法の重みも意味も薄れ、形骸化していく。 今の社会では、警察とて同じだ。法を守り、悪を取り締まるべき存在が、その悪に加担しているという実状。警察という組織は、もはや当てにならない。だから、大輔は行動するしかないのだ。 悪は正さねばならない。真っ当に善良に生きている人間が、損をするような、害されるようなそんな世界を認めてはいけない。それは、警察官の使命だと大輔は思っている。 ←→ [戻る] |