永遠の雪を抱いて眠れ




 それは、幾度目のことだっただろうか。そうして、その日もやはり大輔は彼女に助けられた。
 流石に毎度のことに呆れたのか、彼女の方から言葉をかけてきた。

「貴方も懲りない人ですね。非力な貴方に何が出来るのというのです?」
 声をかけられたことに一瞬喜びを感じたものの、それはすぐに霧散する。
 ――非力。その端的で、それでも適確な言葉に、大輔は唇を噛み締める。
 彼女に幾度となく助けられてきただけに、否定することは出来ない。
 しかし、大輔とて警察官としてそれなりの訓練は積んできている。大輔に言わせれば、自分が弱いのではない。彼女が強く、場数を踏んでいるのだ。
(否、分かってる)
 言い訳じみた自分の思考に、無意識の内で大輔は力なく首を振った。
 それは見苦しい言い訳でしかない。一般的な警察官のレベルであろうがなかろうが、大輔がこのような組織に挑むだけの力はないというのは事実だ。挑むにはあまりに不慣れで、脆弱すぎるとも。
 彼女の言葉は、嫌味でもなければ罵倒でもない。容赦はないが、事実を述べているだけであって、尚更その言葉は辛く感じられる。

「それ、でも」
 それを認めるわけにはいかなかった。
 俯きそうになる顔を上げ、彼女を真っ直ぐに見据える。
「それでも、私は、この荒れた社会をどうにかしたいんだ」
 そう、それでもこの想いだけは、否定する訳にはいかない。自分には何も出来ないと認めることだけは出来ない。彼女の言葉に、胸を締め付けられながらも、なんとか答える。
 それは、大輔の中で譲れない想い。その為に、大輔は警察官になった。
 法律が法律として、機能しなくなったのは、いつからなのだろう。否、いつからかなど分かり切っている。科学技術が発展し、人の欲望が際限なく溢れ始めてからだ。科学者も、それに利を得ている人間も、法律を無視しだした。己の欲求のままに動く彼らに、道徳や倫理感など求めるだけ無駄。ならば、どうなるかなど明白だ。
 その結果、法は法の意味をもたず、ただ社会は荒れていく。そして、尚更、法の重みも意味も薄れ、形骸化していく。
 今の社会では、警察とて同じだ。法を守り、悪を取り締まるべき存在が、その悪に加担しているという実状。警察という組織は、もはや当てにならない。だから、大輔は行動するしかないのだ。
 悪は正さねばならない。真っ当に善良に生きている人間が、損をするような、害されるようなそんな世界を認めてはいけない。それは、警察官の使命だと大輔は思っている。




8/11ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!