True Rose 〜記憶の海〜 2 「ローズちゃん?」 (――え?) 聞こえてきた声に、ローズは自身の耳を疑った。 「あ、やっぱりローズちゃんだ」 空耳かと思ったが、もう一度聞こえてきた声に、ゆっくりと木の下へと視線を向ける。 そこには、ファイがいた。 「こんな所で、どうしたの?」 (……どう、して) 「なんで、木になんて登ってるの?」 (……どう、して) 「あ、子猫を助けようとしたの?」 ファイを見つめるだけのローズに、ファイは問いを重ねてくる。 込み上げてくる安堵。胸が締め付けられるような錯覚すらする。 僅かにだが、視界が歪む。 (……ああ、どうして、こいつは……) 助けて欲しい時に、助けに来てくれるのだろう。 こんな場所に、こんなタイミングで。わざわざこの場所を通る理由なんてある筈がないのに。どうして――。 「……髪が、」 震える声を抑えて、声を発する。 「絡まってしまったんだ」 「木に?」 ファイが、ローズの髪へと視線を動かす。 そして、ローズの状態に気づいたようだ。あ、と小さな声を上げた。 「本当だ、今助けるよ」 「それよりも先に、この子猫を……」 ファイは木の枝へと手を掛けるが、ローズはそれを制止する。 自分などよりも先に、ローズは子猫を助けて欲しかった。こんなに小さな体では、誰かに抱き抱えられているとはいえ、やはり怖いだろう。途轍もないストレスだった筈だ。 ローズは、子猫を早く安心させてやりたかった。だから、ファイへと子猫を渡そうとした。 「うーん、ダメみたいだね」 ――しかし、子猫はいやいやをするように、ローズにしがみついて離れようとしない。 小さな爪を精一杯ローズの服に立て、なんとか離れさせられないようにと必死になっていた。 「ローズちゃんには懐いてるみたいだけど、俺には駄目みたいだね」 それを見て、ファイは苦笑を漏らす。 無理だということが分かったので、木を登り始めた。 ファイは、ローズの所までいくと、絡まった髪を丁寧に一房一房、ほどいていった。 傷だらけの掌は、それでもとても優しい手付きだった。ローズの髪を傷めないように、木を傷めないように、そんな心遣いが伝わってくる。 あんなにもローズが手古摺っていた髪は、ファイにかかればあっという間だった。 (……む) 少しだけ、なんとなくローズは悔しくなった。 それでも、安堵の方が強い。だから、それを言葉にすることはなかった。 「さぁ、降りようか」 ファイが、柔らかな笑みを浮かべた。 ――その時だった。 木の枝が折れる音が響いたと思ったら、ローズの体がぐらりと揺らいだ。 ←→ [戻る] |