True Rose
 〜記憶の海〜



「家主はいないな……ここが研究所、か。ともすると、家の方にいるのだろうな」
 正直な所、本当に何がなんだか分からない状況だった。このまま騎士団を率いて村へ行けば、何か取り返しのつかないことになるような気がした。
 だから、ファイは、騎士達に自分だけで様子見をして来ると言い、無理矢理に一人で村へと向かった。騎士の証である鎧も脱いで。
 聞いていた場所には、民家にしてはそれなりに大きいと言える家があった。無断で入る事に多少気は引けたが、構わず入る事にする。
(――何をしたいのだろう)
 ファイは、考える。
 他の騎士達を待機させ、様子見に自分だけここへ来て。自分は何をしたいのか。どういうつもりなのか。
 真実を、知りたかった。だが、知ってどうするつもりなのか。
 それを公表するのか。それとも王の為に隠し続けるのか。果たして、それらは意味のあることなのか。
 それでも、ただ淡々と部屋の中を見回す。
「日記……いや、研究記録か?」
 ふと視界に入ってきた、机の上にある一冊のノート。
 机の上にはそれ以外の物は一つとして置かれていないというのに、それだけが中央に唯一置かれていた。まるで、誰かに見てもらいたいかのように目立つように。
 随分と長年使い込んだようなそれを手に取る。
 他人のそれを見る事に躊躇はあるが、これも任務の内なのだ。自分は、記されたそれを探さなければいけない。
 任務という言葉に、どこまでも強引に理由付ける自分に、ファイは苦笑を漏らした。
(……いや、違う)
 知りたいのだ。世界の真実を。
 自分がしてきたことはなんだったのか。本当に正しかったのか、それとも間違っていたのか。
 自身を落ち着かせるかのように、一つ、大きく息を吐いた。
 そして、気を抜けば震えてしまいそうな手で、ゆっくりとありきたりなノートを開く。

「なんだと……?」
 そこにぎっしり詰まった文字に、僅かに眉を寄せる。だが、その直後、一ページ目で充分にそれはファイに衝撃を与えた。
 それは、ファイの信じていたものと大きく違っていたのだ。
『魔術とは、精霊と意思疎通しその力を借りるもの。精霊とは、世界に存在する世界の意思。世界の根源。それは、全ての人間に少なからず備わっている。簡単に精霊と意思疎通出来たら、楽しいではないか。私は、その研究をしようと思う。』
 ファイにはそれは、魔術を研究することを自己弁護しているだけにも思えた。 真実には思えなかった。
 魔女は、悪なのだ。世界を呪う存在。そんなものが、世界の意思に従っている筈がない。
 だが、読み進めていくファイの表情がどんどん陰る。
 魔女は悪だと言われていたし、思っていた。そうであるもの。
 だが、ならばこの日記から伝わってくる精霊への愛情はなんだ。これは嘘偽りないものだと思う。
 魔女は、悪ではないのだ。少なくとも、この研究者は悪ではない。全ての魔女が悪であるわけではないのだ。




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あきゅろす。
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