True Rose
〜記憶の海〜
8
「家主はいないな……ここが研究所、か。ともすると、家の方にいるのだろうな」
正直な所、本当に何がなんだか分からない状況だった。このまま騎士団を率いて村へ行けば、何か取り返しのつかないことになるような気がした。
だから、ファイは、騎士達に自分だけで様子見をして来ると言い、無理矢理に一人で村へと向かった。騎士の証である鎧も脱いで。
聞いていた場所には、民家にしてはそれなりに大きいと言える家があった。無断で入る事に多少気は引けたが、構わず入る事にする。
(――何をしたいのだろう)
ファイは、考える。
他の騎士達を待機させ、様子見に自分だけここへ来て。自分は何をしたいのか。どういうつもりなのか。
真実を、知りたかった。だが、知ってどうするつもりなのか。
それを公表するのか。それとも王の為に隠し続けるのか。果たして、それらは意味のあることなのか。
それでも、ただ淡々と部屋の中を見回す。
「日記……いや、研究記録か?」
ふと視界に入ってきた、机の上にある一冊のノート。
机の上にはそれ以外の物は一つとして置かれていないというのに、それだけが中央に唯一置かれていた。まるで、誰かに見てもらいたいかのように目立つように。
随分と長年使い込んだようなそれを手に取る。
他人のそれを見る事に躊躇はあるが、これも任務の内なのだ。自分は、記されたそれを探さなければいけない。
任務という言葉に、どこまでも強引に理由付ける自分に、ファイは苦笑を漏らした。
(……いや、違う)
知りたいのだ。世界の真実を。
自分がしてきたことはなんだったのか。本当に正しかったのか、それとも間違っていたのか。
自身を落ち着かせるかのように、一つ、大きく息を吐いた。
そして、気を抜けば震えてしまいそうな手で、ゆっくりとありきたりなノートを開く。
「なんだと……?」
そこにぎっしり詰まった文字に、僅かに眉を寄せる。だが、その直後、一ページ目で充分にそれはファイに衝撃を与えた。
それは、ファイの信じていたものと大きく違っていたのだ。
『魔術とは、精霊と意思疎通しその力を借りるもの。精霊とは、世界に存在する世界の意思。世界の根源。それは、全ての人間に少なからず備わっている。簡単に精霊と意思疎通出来たら、楽しいではないか。私は、その研究をしようと思う。』
ファイにはそれは、魔術を研究することを自己弁護しているだけにも思えた。 真実には思えなかった。
魔女は、悪なのだ。世界を呪う存在。そんなものが、世界の意思に従っている筈がない。
だが、読み進めていくファイの表情がどんどん陰る。
魔女は悪だと言われていたし、思っていた。そうであるもの。
だが、ならばこの日記から伝わってくる精霊への愛情はなんだ。これは嘘偽りないものだと思う。
魔女は、悪ではないのだ。少なくとも、この研究者は悪ではない。全ての魔女が悪であるわけではないのだ。
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