掌編・短編小説集
4 「神はここから東の方角の、ずっと果てにいらっしゃいます」 「そうか」 得られた答えに、少年は満足気な表情をする。 だが、月白のそれには続きがあるのだ。だから、それを崩すと分かってはいても、言葉を続けなければいけなかった。 「ですが、厳重な結界が張ってあります。それ故に、普通の人間ではそこまで辿り着くのに迷うでしょう」 「だったら……!?」 少年の顔色が変わる。 どうすればいいのか、そう焦りと怒りの色を感じる。 「私が、着いて行きましょう」 月白は、口元だけで小さく笑った。 「え?」 「私なら、その結界に惑わされることなく、辿り着ける術を知っています」 「月白さま……!」 「菫、許して頂戴。きっと、これも私の定めなのよ」 世界が崩壊していくのを、見ているだけではいられない。この村にいたい、という自分勝手で全てを無に還すなんて出来る筈がない。 月白は、それに気付いた時から迷っていた。だが、どうしてもまだ大丈夫だとここから出ることが出来なかった。この少年がここに訪れたのも、運命のように思えた。 「貴方、名前は?」 「……火焔」 「そう。火焔、私は月白。明日、日が昇ったら村を立ちましょう」 「いい、のか?」 「構わないわ。私も、無関係でないもの」 その言葉に火焔が頷いたのを見届けると、菫に視線を向ける。 菫は何か言いたげにしていたが、この場でそれ以上何か言うことはなかった。 静かに立つと、外へと出ていった。恐らく、外で月白との面会を待つ者達へ、今日の面会終了を告げるためだろう。 「……私も、もう一つ聞きたいことがあるのです」 だから、月白の霞むような呟きは、誰の耳にも届かなかった。だが、それは彼女の胸に確かに広がっていた。 自分は何者なのか。少年と話しているうちに、知らなければいけないような気が強くなった。 それは、神に聞けば間違いなく分かるだろう。 ←→ [戻る] |