True Rose
 〜灰の降る世界〜





 何処をどう走ったかは覚えていない。ただただ、ローズは人気のない方へと走り続けた。
 漸く何も誰もいないような、場所へ来て蹲った。辺りに生えている草木が体を擽るがそんな事はどうでも良かった。
 ただ気持ちが悪く、体と心を支配するのは不快感のみ。ローズに出来るのは、堅く目を閉じてそれが過ぎさるのを待つ事だけ。
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……ッ!)
 胃から迫り上がるような不快感。何かに辺り散らしたいような衝動を、無理矢理抑え込む。

 ――草の音がした。靴と擦れ合う音がローズの直ぐ後ろから。
 ローズを驚かす事のないように、とそろりと運ばれる足。そんな些細なものからも、彼の配慮と優しさを感じた。
「………ローズちゃん」
 ローズは応えない。聞き慣れたその声に、僅かに指先が反応しただけ。
 それでも、ファイは構わず続ける。
「やっぱり、まだ駄目なんだね……」
 小さく頷く。肯定の意だ。
 付き合いの長いファイはそれだけで、未だにローズが過去にどれ程捕われているか分かったのだろう。それ以上は何も言わなかった。
「…………記憶に、なんて無い筈なのに、駄目だ……」
 震える声を堪えて、それだけを呟いた。
 魔女狩り、と聞く度に脳裏に刻まれた紅い炎を思い出す。ただ独り、訳も分からず、炎の中にいたあの時の事を。





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