True Rose
 〜灰の降る世界〜


「そんな事は他の女にでもやれ」
 馬鹿ワイン頭、と吐き捨てるように呟く。かなりの力を込めてローズは叩いたのか、ファイの手は赤く腫れていた。
 毎度の事ながら懲りない。いい加減学習しても良い頃だろうに、ファイは常にローズを怒らすような行動をする。
 最近では寧ろわざわざ怒らせているのではないか、と思うようになったくらいだ。
 情けなく痛みにうずくまるファイを一瞥する。剣を持つ人間にとってこんなものは痛い内に入らないだろうに。心底飽きれて溜め息が漏れる。
 付き合ってられない、と呟くとローズは歩き出した。まだこれから、今夜泊まる宿を探さなければいけないのだ。馬鹿に構っている暇はない。
「あーローズちゃんってばぁ!」
 顔に似合わない、間が抜けたような声は無視するに限る。放って置いてもどうせ来るだろうから気にする必要はない。
 それ故に、さっさと離れてしまおうと始めは早足で歩いていたのだが、往来の激しいこの人混みでは思うように進めない。
 徐々に緩まる速度に苛々し始める。
(………苛々する)
 心の中で毒吐くが、それでもとりあえず足だけは止めない。出来るだけ人にぶつからないよう、その間を縫うように歩く。
「ローズちゃんっ!」
 漸く追い付いたのか、直ぐ後ろからファイの声がした。
 そう思った直後、視界に紅が入って来た。ローズの前を――半歩程斜め前を歩き始めた。
 それはまるで防波堤のようで、前へ進むのが多少楽になった。
(………こういう所は悪くないな)
 へらへらへらへら、いつもふざけたように笑っている印象が強いが、紳士的な面もある。気を使われて悪い気はしない。
「偶には俺も役に立つでしょ?」
「………偶だがな」
 だが結局、口から出るのは憎まれ口だけ。
 そんなローズに、ファイは不機嫌になる事もなくただ笑みを浮かべていた。





2/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!