True Rose
 〜灰の降る世界〜




 長かった夜はもうすぐ終わるだろう。そんな事を思いながら、ローズ達は宿へと帰る道を歩く。いつまでも、寒い夜の中で雨粒の下にいる意味はない。
 だが、宿屋に足を踏み入れた瞬間、上がった感嘆の声。ローズは、驚きのあまりに固まった。
 何事かと思えば、女が安堵の息を漏らしていた。それは、宿の人間だ。
「見つかったんですね、良かったわ!」
「ええ、心配かけてすみません」
 その女と、ファイはなんの疑問もなく話をしていた。
 話に付いていけずに困惑しているローズに気付くと、ファイは説明してくれた。
 遅くなっても戻って来ないローズに、ファイは心配して彼女達にもローズが帰って来ていないか聞いたらしい。そして、彼女達も心配してくれていたようだ。
 ここは、お礼を言うべき場面なのだろう。だが、ローズは何と言って良いか、戸惑っていた。

「……ごめんなさいね、胡散臭い目で見てしまって」
 それよりも先に、口を開いたのは、女の方だった。
「え?」
「貴方の黒髪、不吉な存在じゃないかって。昨日……」
 そこまで言われて、ローズは思い出す。昨夜、山賊の話をしていたのはこの女だ。
「山賊を倒して下さったんですってね、お礼を言わなきゃ。ありがとう、貴方達のお陰で助かったわ」
「そん、な……」
 温かい笑顔を向け、彼女は頭を下げた。
 どうしたらいいのか、ますます混乱するばかりだ。人から、こんな風に礼を言われた経験がローズにはない。
 そもそも、ローズは大した事をした訳ではない。あの山賊はそんなに強い訳ではなかったし、ファイに説得されて一緒に言ったようなものだ。決して、礼を言われる程の事では――。

「ローズちゃん、こういう時は『どういたしまして』って言えばいいんだよ」
 小さなファイの囁きに、ローズは彼に視線を向けた。戸惑う自分とは正反対に、静かに、それでも嬉しそうに微笑を浮かべている。
 頷く姿が、早く、とローズを急かしているように感じられた。
「……どういたしまし、て。それと……心配してくれて、ありがとう」
 ぎこちなく浮かべた笑顔。それは、とても不自然なものだっただろう。笑顔になっていたかさえも定かではない。
 それでも、女は何か言う事もなく、ただローズに笑顔を向けた。
(――――っ)
 ローズは、そこで漸く気付く。
 自分にも出来る事はあるのだ。
 それは、大きなものではないかも知れない。ほんの些細な事かも知れない。
 それでも、間違いなく何か出来る。良くない方向に向かうかも知れないが、今回のように力になれる事だって確かにあるのだ。
 ただ、それが泣き出してしまいそうなくらい、嬉しかった。





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