True Rose
 〜灰の降る世界〜


「離してくれ」
 ただ震えるだけだったローズの意識を戻したのは、ファイの言葉だった。
 普段からは考えられないほど冷たい声で、ファイの口から紡がれた声。
 それでも、母親は尚も喚き散らしていた。
「離してくれと言っている」
 だが、ファイは二度繰り返す。
 氷の刃が突き刺さるかのような、鋭さを持った声。流石のハンナの母親も、たじろいだ。
 離れていく指と、恐怖からか動かなくなった体を確認して更なる言葉を投げる。
「……彼女は何も悪くない。髪の色ごときで決めつけないでくれるか?」
 それは、ハンナの母親だけにではない。ローズを悪だと決めつけるもの全てにだ。
 村人達に背を向けて、ローズに向き直るとローズを抱き抱えた。震える彼女を優しく撫でると、そのまま歩き出した。
 大きな胸板に視界を阻まれたローズには、後はもう何も見えなかった。ハンナの母親の表情も、村人達の様子も。
 ただ、母親の咆哮だけは聞こえた。娘を殺され、ローズを恨む感情はそれだけでも伝わって来た。





「……私が、誰かと関われるものか……っ」
 思い出はどれも苦い。思い出と言うには痛みを感じ過ぎる記憶だ。
 ファイと二人だけの記憶以外は、どれも痛いものばかりだった。
 だから、ローズは人と関わる事を止めた。人と視線を合わせる事もなく、最低限だけの言葉で充分だと思った。
 確かに、ハンナの村があまりに過激過ぎるだけで、その他が全てそうという訳ではない。だが、自分が関わると、少なからず良い方向には向かない。
 ならば、関わる事は罪と同じではないか。他人に不幸をばらまいて、狂わせて……。
 それが許される事だとは、ローズは思わない。
 見上げた空には月が一つ浮いていた。静かに、孤独に世界に存在していた。
 ――人だって一人でも、生きていけるのだ。そう、言い聞かせるように瞳を閉じた。




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あきゅろす。
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