True Rose
 〜灰の降る世界〜


 だが、翌日、ローズとファイは、昨日の別れ方が気になって、ハンナの家の方向へやって来てしまった。
 ローズにとっては初めての友達なのだ。このまま会えない儘など、悲し過ぎた。ファイもローズを心配してやんわりと止めるし、また母親に追い返されるかも知れないとは思ったが、どうしても耐えられない。
 どうしたら良いか、などという具体的な案はないのだが、とにかく彼女達の足はハンナの家に向かう。
 そうこうしているうちに、段々とハンナの家に近付いて来てしまった。
 思案に夢中になり気付かなかったのだが、何となく辺りがざわめいているような気がした。騒がしいというか落ち着かないというか、村の空気が違う気がした。
 ハンナの家へ向かえば向かう程、大きくなっていく喧騒に耳を凝らす。嫌な予感がした。

「なんでハンナを殺したのよ!?」
「その子は魔女にたぶらかされたんだ! 魔女の味方をしているじゃないかっ!」
「ハンナじゃなくて、あの子が悪いんじゃない! あの黒髪の魔女がっ!」
 届いてくるいくつもの単語。ローズにも意味が分からない訳ではない。だが、何を言っているのか、理解する事を無意識のうちに拒んでいた。
「……フ、ァイ……」
 小さな手が震える。
 考えたくない。理解したくない。
 でも、答えは導き出せてしまう。残酷な事にも、ローズはそれほど愚かではなかった。
 激しい口論から推測出来るのは、ハンナが殺された事、そしてそれが恐らくローズの所為だという事――。
(殺され、た? 嘘だ……)
 辿り着いた答えに、思考が停止する。いつの間にか、ローズの足は動かなくなっていた。
 声を上げる事すら出来なかった。ただ、見開いた目だけが、その驚きを示していた。

「アンタ……っ! アンタの所為で……!」
 人垣の中心で喚き散らしていた女性――ハンナの母親が、ローズとファイの存在に気付く。
 見開いた目は、直ぐに憎悪の籠った目に変わる。
 向けられた事がないほどの、深い憎悪。
 お前なんか死ねばいいと、言われている。ローズの存在全てを否定する。
「アンタの所為でハンナは殺されたのよ!? ハンナは、アンタと関わっただけじゃなくて、それを咎める村の人に、アンタはいい子だって伝え歩いたから……! 」
 周囲の人間を蹴散らしながら、母親はローズの方へと向かって来る。目を血走らせ、髪を振り乱し、憎悪を全身から放つ。その様子は鬼のような形相だった。
「返してよ! ハンナを……っ!」
 掴み掛かられたのは、直ぐにローズを庇うようにその前に立ったファイだ。
 掴まれた所が、皺になっていただけではなく、赤いが染みて来た。
 それは、血だ。ファイの皮膚に食い込んだ爪が、彼を傷つけ血を流させている。それだけ、強い力で彼女は掴み、爪を立てているのだ。
 それが、彼女の怒りを示していた。否、足りないくらいだったのだろうとは思うが。
(私の、所為……私がこの村に来たから……)
 ハンナは死んだ。彼女は娘を失った。
 何が原因か? 聞かれれば、ローズがハンナと仲良くした事なのだろう。ローズは思う。 
 自分はなんて事をしたのだろう。目の前が真っ暗になった。ただ、ただここに存在している自分が憎らしい。




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あきゅろす。
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