True Rose
 〜灰の降る世界〜


「ハンナ? あら、おかえ………ハンナっ!?」
 ハンナが家の扉を開けると、娘の帰りを優しく迎える母親の姿が見えた。
 だが、それも束の間でローズと視線が合うと、途端に表情を変えた。
「なんでそんな子と一緒にいるの!? 早くこっちへいらっしゃい!」
「お母さん?」
「髪が黒いなんてあり得ないわ! その子は魔女よ! この悪魔っ!」
 戸惑うハンナの手を引き、引き摺るようにしてでもローズから離れようとする。痛みにハンナが顔を歪めるが、あまりの怒りに気付いていないようだ。
 何が起こったのか、ハンナには理解出来ないようだが、ローズには分かった。自分の髪の色が不吉だからだ。
 黒、自然界では有り得ない色であり、闇を彷彿させる色。人々は恐れ、嫌悪する。
「お母さん、ローズは悪くないよ!」
「ハンナ、そんな事を言うんじゃありません!」
 泣きそうなハンナと視線が合うが、ローズにもどうする事も出来なかった。
 ただ、小さな掌を握り締めて、ハンナとその母親を見つめていた。
「もう、うちの子に近付かないで!」
 眉を吊り上げ、怒りを顕にしながら母親はローズを睨み付けた。
 乱暴に閉められた扉が間を阻み、ローズにはもう二人の姿が見えくなった。
 ローズは、暫くただその閉められた扉を見ている事しか出来なかった。まるで魔法が解けたかのように、ただ立ちすくむだけだ。
 結局、自分は黒髪を持つ不吉な存在で――。

「私……」
「ローズちゃん、君は悪くないよ」
 俯いて、涙を耐えるローズの頭に降って来た温かな温もり。それは、ファイの大きな掌だった。
 何度も何度も、ローズの頭を優しく撫でる。涙を拭って見上げると、痛みに耐えるような表情をしていたのは、ファイも同じだった。
 ファイはローズの手を引いて、宿へと向かった。それは、これ以上ローズを傷付けないようにする為だったのだろう。






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あきゅろす。
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