True Rose
 〜灰の降る世界〜


「旅っていろんな所に行くんでしょ? どんな感じなの?」
 村を案内してもらいながら、ローズはハンナに様々な問いを投げ掛けられていた。
 色々と案内してもらって悪いとは思うが、正直なところローズはそれらよりもハンナばかりを意識していた。
「まだ始めたばっかりだから、よく分からない。でも、いろんなものを見るのは楽しい」
 そして、人と出会い、話す楽しさを初めて知った。
 世界に存在するのは、景色やものだけじゃない。人だってそのうちのものだ。
 そんな当たり前のことに、ローズは初めて気付いた。
「一人で旅してる訳じゃないよね?」
「ファイが一緒だよ。会う?」
「うん!」
 ローズとハンナは、ファイとの待ち合わせ場所に向かう事にした。
 実際、ハンナも町の案内よりもローズや旅のことに興味が向いていたのだ。 ローズも、ファイにこの楽しさを分けてあげたいと思っていた。
 だから、直ぐにそうなったのは自然な事だったのだろう。
 時間的にまだファイはいないかも知れないが、そしたら二人で話をしながら待てばいい。その時間さえも、ローズにはとても楽しい時間に思えた。

「……ファイ?」
 けれど、予想外にファイはもうその約束の場所にいた。
 ローズの姿を見つけると、隣にいる少女に僅かに驚いた表情を見せた。
「ローズちゃん? その女の子は?」
「友達になった。ハンナ、ファイだよ」
「そっか、初めまして、ハンナちゃん?」
「初めまして」
 ファイは何故か嬉しそうに笑っていた。それは親が子供を見るかのような、慈愛を含む瞳だ。
 何故かはよく分からなかったけれど、ローズもなんとなく嬉しくなった。
「転んだところを、助けてくれたの」
「そっか、ローズちゃん痛くなかったかい?」
「うん。だいじょうぶ」
「ハンナちゃんありがとうね」
 ファイがこんなに嬉しそうにしているのは、久しぶりだとローズは思う。
 普段も彼はとても愛想が良いが、心底嬉しそうだ。
「どういたしまして。転んだちっちゃい子を助けるのは当然だもん!」
「私が、小さいならハンナも小さいよ」
「えーでも私のがお姉さんに決まってる!」
「背なんてすぐに抜かす!」
 拗ねたように、ムキになって言葉を返す。それは、普段陰の見えがちのローズが、普通の子供らしく見えた。
 仲良さげに騒ぐ様子は微笑ましかった。ファイにも表情が綻ぶのは止められない。
 だが、そんな風にファイが見ている事にローズが気付くのにそう時間は掛からなかった。直ぐに、ローズは少しだけ顔を逸らした。
 そして、恥ずかしい、そう感じたのはハンナも同じようだった。ほんの少しだけ顔が赤い。
 子供だが……いや、子供だからこそか子供扱いされるのはなんとなく嫌だったのだろう。この場を変えようと、話を持ち出したのはハンナだった。




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あきゅろす。
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