True Rose
 〜灰の降る世界〜



 辺りを覆い尽くすような、燃え盛る紅い炎。吐き気がするような、焦げた肉の匂い。炎に焼け、轟音を立てて崩れていく家屋。
 それはあまりに凄惨な光景だった。普通の意識と心を持っていたならば、痛々しく、恐ろしく、目も耳も何もかもを閉ざしたくなるような光景。
 そんな中で彼女はそれらを見つめながら、それでも何も瞳に映さず、ただ座っていた。自分は何故こんな所にいるのか、自分は何なのか、全く分からずにそこに在った。
 何も知らない世界に、放り出されたような気分だった。いや、実際そうだったのだろう。
 辺りに広がる炎に危険を感じる心すら、凍り付いたように動かなかった。
「一緒に、来るかい」
 その声に、初めて彼女は体を動かした。軋むような体を動かし、声のした上を見上げる。
 そこにいたのは、一人の男だった。炎と同じ色をした髪、けれど太陽の光を受けるそれは綺麗で優しく感じられた。
 崩れていく村の中で、彼はローズに微笑を浮かべた。あまりに場違いなそれは、酷く印象的だった。
 ただ、見つめ合うだけの沈黙が流れていた。世界に広がる音という音は、炎の燃える音だけ。
 気付けば、彼女は微かに頷いていた。何故か分からない。目の前の人間を信用していいものなのか分からないのに。
 だが、頷いた彼女を男が抱えてその場を後するのに、そう時間はかからなかった。炎にまみれた村にいたのだ、その対応は当然の事だったのだろう。
 ――その男が、ファイだった。


 重い瞼を開けると視界に入って来たのは、白い天井。辺りを見渡すと部屋のようだ。必要最低限のものしかないのを考えると、宿なのかも知れない。
 いつの間にか、彼女はこの部屋にいた。見れば、焼け焦げた服は着替えさせられ、体は綺麗に拭かれていた。
 多分、あの後気絶してしまっていのだろう、と推測する。隣のベッドには、紅い髪の男が腰掛け、彼女の方を向きながら瞳を閉じていた。眠っているのかも知れない。
 だが、彼がいる事を考えると、彼がここへ連れて来たと考えるのが自然だ。
「どうして、たすけたの?」
 彼女の声に、男の瞳が開く。彼女の姿を確認して、安堵した様に息を漏らすが分かった。
「助けたかったからさ。それじゃダメかい?」
「……」
 彼女は、男が何を考えているのか窺うように見つめた。
 だが、分からない。ぎこちない微笑の下には何があるのか、男は全く気取らせない。
「ローズちゃん」
「……ローズ?」
「それが君の名前だよ。俺はファイ」
「……」
 それでも、ぎこちないながらも、優しく微笑む人だと思った。
 その時から彼女は、「ローズ」になった。





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あきゅろす。
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