True Rose
 〜灰の降る世界〜




 時々、ローズは思い出す。ファイと出会った時の事を。記憶を探す旅をしようと決めた時の事を。それからの事を。
 思い出す記憶自体が他の人間よりも少ないのだ、それを頻繁に思い出すのは当然の事なのかも知れない。
 そして、それが自分の始まりだったのならば尚更だ。
「……ワイン頭、そこにいるんだろう?」
 感傷に浸るかのような気持ちを振り払うようにして、言葉を紡ぐ。
 ドアの向こう側、部屋の外からは困ったような吐息が聞こえた。
「……バレてた?」
 それに似合うような表情でドアを開けて入って来たのは、そのファイだ。
 帰ってきたものの、やはりローズがまだ弱っているようだったので、今まで気遣って入って来なかったのだろう。
「当たり前だ」
 だから大丈夫だ、と言うかのように、いつものように笑う。
 礼は言わない。わざわざ言うのは何となく癪だ。
 だが、それでもローズはファイに確かに感謝しているのだ。ファイと共にいるのは心地良い。
「ところで、外に行ってたのか?」
「ああ、うん。騎士の動きを見て来たんだ」
 ローズの問いに、唇を吊り上げて笑うファイは、少しだけ機嫌が良さそうに思えた。
 良い知らせがあるのだろうと思いながら、ローズは問いを重ねる。
「それで?」
「もう、今回の彼らの仕事は終わってるみたいだね。一部、帰ってるみたいだよ」
「そうか」
 その言葉に、ローズは少し気持ちが軽くなるのを感じた。
 騎士達が一部しか帰らないのは、とりあえず何かあった時の為になのだろう。
 仮にも魔女狩りの対象がいた村だ。まだ何かあるかも知れない、と用心するのは当然の事なのだろう。
 それでも、騎士のいる数が少なければローズも少しは心休まる。
「まぁ目立たないように気を付けるべきだろうがな」
「そうだね」
 ファイが頷いて、会話はそこで途切れた。
 暇になったローズは、窓の外へと視線を向ける。
 そこに広がるのは闇だ。存在するものを覆い隠す深い闇。
 そこに存在するものは今は闇の下だが、夜が明ければまた光の下に出られる。
 ローズに訪れる夜明けは、いつになるのだろうか。
 闇に隠れるかのように生きていかねばならない事を、恨めしいと感じずにはいられなかった。



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あきゅろす。
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