True Rose
 〜灰の降る世界〜





 辺り一帯の喧騒に、ローズは不愉快そうに表情を歪める。耳障りな煩さにも苛立っていたが、自分達に集まる視線もまた気に入らない。
 鬱陶しげに長い髪を払うと、隣を並ぶ男を睨み付けた。単なる八つ当たりでしかないのだが、それでも男ファイは別段気を害した様子もない。寧ろ人好きする微笑を返すだけ。
 その様子もまた気に入らないので、尚も当たるように文句を言う。
「お前の髪は目立つ。もっと目立たない色にでも染めろ」
 常に隣にある、紅い髪に眉を寄せた。
 周りを見渡せば、大部分が茶色や黄土色の髪色の中で、その色は殊更目立っている。
 ワインの色に似た深みのあるその色を、決してローズは嫌っているわけではない。寧ろ太陽に透かせば煌めくそれは美しいと思うくらいだ。
 だが、良くも悪くもそれは人目を引く。周囲に隠したい事がある身としては、出来るだけその他大勢の中に埋もれていたいし、目立ちたくなどはなかった。
「そんな事言われてもなぁ、ローズちゃんだって充分目立つよ?」
「私のは染まらないだけだ、仕方あるまい。知っているだろうが?」
 肩から落ちて来た髪を、鬱陶しいと感じながら払う。
 漆黒のそれは、緩くウェーブの掛っており腰よりも長い。大した手入れもされてないというのに、それは艶やかに輝いていた。
 こちらも人目を引くし、自然では有り得ない色だ。記憶にある限りローズは自分以外の黒髪は見た事がない。
 黒は不吉な色だと言われている為に、一度別の色に染めようとした。しかし、どういう訳か染まらなかったのだ。
 魔力が強い所為か何かは分からないが、ともかく染められない事だけは間違いない。
 ともなれば、不愉快極まりないが好奇な視線に耐えるしかない。
「……俺は好きだけどね、その色」
 不機嫌そうに顔をしかめるローズに対し、ファイは反対に微笑を浮かべる。
 そして、その長い指先がローズの髪に愛しむように触れた。そのまま流れるような動作で、掴んだ一房に口付けを落とされる。
 恭しくも気障なその仕草に、考えるより早く手が出た。




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