True Rose
 〜灰の降る世界〜


「それが崩れたのは、王と重鎮の話を盗み聞きしてしまった日だ。ローズちゃん、君の両親の話だったんだ」
「私の……?」
「君の両親は、元々、王の命令の元に、その援助を受けて研究していた。その力を、戦争に役立たせる為に」
「……!」
 紡がれた言葉に瞠目する。
 戦争の為に研究していた? まさか。
「誤解しないで欲しい、多分両親は知らなかったんだよ。その為に、っていうのを」
 ファイの言葉に、ローズは安堵を感じた。
 だが、それもほんの一瞬の事で、次の瞬間には怒りに塗り替えられる。
「でも、戦争が終結して、口封じが必要になった。だから、魔女として村ごと焼き払うように、と命令が出た。そして、その研究ノートと研究の結果だけは持ち帰るように」
 戦争が終結した後、あまりに強力な戦の道具を研究し続けていれば、少なからず外交問題になるだろう。
 魔術の――両親の研究結果は、ローズが身を以て知っている。その意思を持てば、強大な破壊にもなる。確かに、杞憂し、恐れるに足りる武器だ。
 彼らの選択は、国を守る為には賢いものだ。研究者二人よりも、国家を取るのは当然の事ではある。
 だが、そのあまりの自分勝手さに吐き気がする。要らなくなったら切り捨てる、それでもその成果だけは得る、という考え方に。
 それは、人を駒としてみている。その人間にも、人格があり、感情があり、家族があり、夢や希望もある。それなのに、その全てを無視し、「戦争の為の武器として研究をしていたから」という理由で切り捨てようとしたのだ。
「……本当、自分勝手だよね」
 吐き捨てるように呟かれた言葉には、ありったけの侮蔑が込められているような気がした。
「その研究を命じ……しかも世界の為に、っていうのを隠しながら命じて。でも、邪魔なものになったから無かった事にしようとした癖に、いつか必要になる日が来るかも知れないと、自分のものにしておこうとはするんだから」
 冷たい、声だった。
 嘗て、敬愛し、忠誠を誓っていた王。だからこそ尚更、ファイは許せなかったのかも知れない。裏切られたように感じたのかも知れない。
「しかも、俺には、魔女だと、世界に仇をなす、だから打ち取るように、という命令だけで……っ。全てを隠して、綺麗事に包んで、さも自分が正しいんだというかのように……!」
 バツが悪そうに視線を逸らして、ファイは大きく一つ息を吐いた。
 段々と荒げられていく声に、ファイ自身も気付いたのだろう。それは、感情的になりだした自分を抑えるかのようだった。
 そこに押し込まれた感情に、触れたい、とローズは思った。それでも、ファイは言葉を続ける。




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あきゅろす。
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