True Rose 〜灰の降る世界〜 3 「ローズちゃん、これからどうする?」 考えに耽っていると、唐突に掛けられた声。 顔を上げ、疑問を浮かべてファイを見た。 「どうする、とは?」 「君の記憶は戻った。旅の目的は果たしたんだよ?」 「…………そうか、そうだったな」 言われた言葉に、ようやくローズは思い出す。あの日、ファイと旅をする事を決めた時の事を。 記憶を探す旅をしよう、と。ファイはきっと、戻らなければいいと思っていたのだろうが。 『どうか、世界を嫌いにならないで』 瞳を閉じると、静かに蘇る言葉。それは優しい響きを持っている。 彼女とて、世界の汚さを見せつけられていただろうに。それでも、世界を恨みも呪いもしなかった。 娘に、全てを託した。それは大きな賭け。不確定要素が多すぎて、恐ろしく不安定な。それでも、ローズを信じた。 「ローズ、ちゃん……?」 黙り込んでしまったローズに、ファイはおずおずと声を掛ける。 心配の色を含むそれに、大丈夫だ、と答え、思案を巡らす。 (……旅を、続けよう) 世界は、とても広いのだ。ローズが知っているもの、見たものはほんの僅かでしかない。 人間は汚い。世界は汚い。生きる事に必死で、他を害している事に気付きさえもしない。それに失望する事も絶望する事もある。 だが、それだけではないと思いたい。それだけではないのだ。傷を付けるのが人間なのであれば、その傷を癒すのもまた人間なのだから。 だから、人は生きているのではないだろうか。数多の闇を抱えながら、それでも希望を持ち続けるから、生きていくのではないだろうか。 「旅は、続けるぞ」 そう言って、ローズは淡い笑みを浮かべた。 ――探したいものが沢山ある。今まで自分が否定してきた、この世界で。 美しいものを。世界が汚いだけではなく、綺麗なのだという証拠を探したい。 何故、人は生きるのか。繰り返した問いの答えは未だに分からない。 それも、探したいと思う。自分の生きる意味を、自分で探すのだ。魔女だから人を害する、のではなく。 世界へ贖うだけではなくて。探して行こう。 何をすればいい? 分からない。だが、それも探して行きたいと思う。自分が出来る事からして行こう。 全てがあまりに漠然としていたが、ローズは不思議と不安は感じなかった。喜びに満ちていたからだろうか。 ふと窓の外に視線を向けると、いつのまにか空は夜の帳を開けていた。 雨上がりのそこには、天と地を繋ぐように、虹が掛かっている。 世界を覆うのは灰だけではないのだと、世界に囁かれたような気がした。 END 2009.8.23 ← [戻る] |