True Rose
 〜灰の降る世界〜




「これ」
 部屋に戻り、ファイは暫く荷物をあさっていたかと思えば、そこから何か取り出してきた。
 不思議に思いながらもそれを見ると、ファイが差し出したのは一冊の古いノートだ。
「ローズちゃんの両親の……多分、お母さんの日記だよ。君が持っているべきだ」
 ファイは優しく微笑み、ローズが受け取るのを待っている。
 だが、その言葉に僅かな迷いが生じる。本当に自分が受け取っても良いのかと。村を焼き、両親までもを殺してしまった自分が。
 そんなローズの心情など分かっていたのだろう。ファイは、ローズの手を掴むと受け取らせた。
 困惑しながらもそれを受け取ったローズは、促されるままにそのページを開く。

『魔術とは、精霊と意思疎通しその力を借りるもの。精霊とは、世界に存在する世界の意思。世界の根源。それは、全ての人間に少なからず備わっている。簡単に精霊と意思疎通出来たら、楽しいではないか。私は、その研究をしようと思う。』
 そんな書き出しから始まったそのノートは、多くの研究成果が記されていた。それと同時に、目を引くのは精霊への愛情。
 彼女は、本当に精霊が好きだったのだ。世界の意志を感じ、世界と一体化するような感覚が好きだった。
 しかし、次第にそれは穏便ではないものも綴られるようになる。
『この力は恐らく、あまりに強力すぎた。精霊の意思なくしても、ある程度はその力を使える。人がこれほどのものを手にしていい訳がない。破壊を齎す事も容易い。決してそのような意思を持った人間に、これを与えてはいけない』
『強大な力は、人を狂わす』
『魔の手が迫っている事が分かる。おそらく、彼らは口封じをしたいに違いない。そして、これを奪う。どうすれば、守れるのか――』
 鬼気迫るような文章。彼女達は知っていたに違いない、王が自分達を排斥しようとしていた事にも。そして、自分達が生み出してしまったものが危険なものだったとも。
『この力を、娘に託そう。そうでなければ、間違った考えの者達の手に渡ってしまう。巻き込む事を許して欲しい。どうか、誤った方向に使わないで。そして、世界を嫌いにならないで』
 そこで、文章が途絶える。その先は、白紙のページだ。彼女達が生きていたのはそこまでだったのだろう。

 開いていたノートを閉じる。小さな音と共に閉じたそれを、ローズは暫くただ見つめていた。
 初めて触れた、両親の心の一端。それまで知らなかった、心の内。
 蘇る、嘗ての思い出。ただ、彼女達は精霊を愛していた。日常の中で、常に精霊と戯れていた。ローズには見る事も聞く事も出来なかったが、精霊の起こす風や水に、そこに彼らがいる事を知れた。
 研究を始めた理由だって、本当に細やかな理由だ。誰もが彼らと意志疎通が出来たら楽しいではないか、というただ純粋な願いだった。
 それなのに、彼女は利用され、切り捨てられ、娘に殺される事になった。
 散々な人生と言えばそれまでだ。それでも、彼女にとってはそうではないような気がする。




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あきゅろす。
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