True Rose
 〜灰の降る世界〜



「…………生きて、いいのか? 私は……、」
 止まった筈の涙が、溢れそうになる。世界を覆い尽くすように、溢れて増えて。
 ローズが、やっとの思いで紡ぎ出した言葉は、やはりか細く、震えていた。
「生きていれば、大小はあれど罪を犯す事くらいある。償えない罪だって、沢山あるだろうね」
 人は、人だから。不完全な存在で。誰もが、きっとそうで。
 だから、善い事もすれば、当然間違いも犯していく。
 ファイは、そう言いたいのだ。
「でも、それに気付いた時にどうするか、やっぱりそれが大切なんだと思う。綺麗事かも知れないけれど」
 綺麗事かも知れないけれど、と言っても、それでも彼は真っ直ぐな瞳をしていた。信じているのだ、そうなのだと。
「俺達は、罪を犯した。その相手に対して、もう何も出来ない。でも、俺が償いたいから生きている。他の方法で償おうと思う」
 それが途方もない事だと、分かっていても彼はそれを選ぶのだ。方法すら分からない、誰に償えばいいかすらも分からない、そんな方法を。
 幾度も、数え切れないほど、その呵責に耐えられなくなりそうになった時もあっただろうに。それでも、それを選び続ける。逃げる事なく。
 それを、強さと呼ばずになんと呼べばいいのだろう。少なくとも、ローズにはそれ以外の何者でもないと思える。
「死、なんてなんの償いにもならないから。自己満足でしかないんだよ。俺達のちっぽけな命一つで、何かを贖える訳がないんだ」
 それは、恐らくローズに向けてというよりは、自分に向けての言葉だったのだろう。
 ほんの刹那、その言葉を噛み締めるようにローズは瞳を閉じた。
 歩いて行く道は、とても険しい。それでも、人は生きていく。
 灰色の空の下でも、暗闇でも、人は生きていくのだ。生きて行かねばならない。沢山のものを背負って。苦痛や罪悪に苛まれながらも。
 何故なら、人は生きているのだから。生きていく事を決めたのだから。生きたいと思うから、生きていくのだ。
 選択をして、後悔して、多くの過ちを犯しながらも。笑ったり、泣いたり、怒ったり……数え切れないほどの感情を紡いで。世界に咲かせて。
「……ああ。そうだな」
 仰いだ灰色の空は、とても広かった。限りがないかのように、広がっていた。
 差し出されたファイの手を取って、ローズはゆっくりと立ち上がる。
 瞳は、閉じない。世界を見ていたかったから。







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あきゅろす。
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