True Rose
 〜灰の降る世界〜


「真実は何なのか、迷い戸惑った。自分の信じてきた事が崩れ、何もかもが、分からなくなった。もし、全てが本当にそうだったなら、自分のしてきた事はとんでもない事だ。絶望しながら、ルーン村に行ったあの日、君の両親の研究ノートとも日記とも取れるノートを、見たんだ」
「それは……?」
「溢れるばかりの精霊への愛情が見えたよ。少なくとも、彼女は邪悪な魔女じゃない事はよく分かった」
 思い返すかのような瞳。それがとても哀しげな瞳だった。
 未だに、ファイは過去の事実に苛まれている。淡々と語るように努めてはいるが、彼にとってもやはり全ては過去の事ではないのだ。
 それを思うと尚更、その時のファイの心情を考えて、ローズは胸が痛むのを感じた。
 信じていたもの、その人間の中核を為すものが、崩れ落ちた時に感じる、絶望感。それはとてつもないものだと、ローズは知っている。
 目の前が真っ暗になる、とはよく言ったものだと思う。進むべき道を失くしたかのような感覚……いや、実際にそうなのだ。彼は、神に捨てられたような気分だったのだろう。
「そして、戸惑いながら、村の外で待機させていた他の騎士達の所に戻っていった。その後だったね、君が魔力の暴走を起こしたのは。騎士をそのまま待機させ、俺だけが村に戻った」
「そこで、私を見つけた?」
「うん、泣きながら座り込む、幼い君を。そして、君を連れて、俺は誰にも言わず、その場を去ったんだ」
 そこに浮かぶ色は、先程までのものとは違う。昔を思い起こす、懐かしさ。優しい微笑を浮かべていた。
 それに、ローズはほんの少し嬉しさを感じた。ローズも懐かしいと思う。あれが、ローズにとっての始まりだったのだ。
 でも、実際にはそうではなくて。忘れてしまっても、過去は消せない。ローズにも過去は存在し、そしてそれを思い出した。
 罪にまみれた自分。沢山の人間の命を奪い、それなのにのうのうと生きている自分。
 自分は、これからどうしたらいいのだろう。どうすれば……。

「俺は、後悔してるし、自分のした事を思い返すと、生きている事すら自分には罪なんじゃないかって思えてくる。だから、ローズちゃんの気持ちも分かるよ」
 寄せられた眉からは、痛みを感じさせられた。後悔などと単純な言葉では片付け切れないもの。それを背負いながら生きるのは、どれだけ辛い事か。
 忘れる事が出来たら楽なのだ。でも、忘れられない。辛い記憶というのは、いつまでも残り、苛み続ける。そもそも、自分自身が忘れる事を許さない。
 それでも、ファイはそれを語った。彼が昔の話をするのは、恐らくローズの為だったのだ。
「ローズちゃん、忘れろとは言わない。確かに、もう思い出してしまった以上、そうすべきではないだろうね。でもね、いいんだよ、あんまり自分を責めなくても。責めて、責めて、責め続けたら、いつしか心が凍っちゃうんだ」
 責めるでも許すでもなく、諭すように、ファイは言う。
 浮かべているのは、不安を包み込むような、温かい笑顔だ。幾度も幾度も、ローズはそれを見てきた。
 それは、記憶を遡れば遡るほど増えていく。瞳を閉じれば、懐かしい記憶にが蘇ってくる。






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あきゅろす。
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