True Rose
 〜灰の降る世界〜


「何故……!? 何故……!?」
「ローズちゃん!」
「どうして!? どうしてなんだ!?」
 ちりちりと頭が熱い。焼け付くような感覚さえする。苛立たしく視界が歪む。
 ファイが慌てた様子で制止するが、その声はローズにはもう届いていなかった。ただ視界が、赤く染まる。紅く、紅く。
 それは、鮮烈な赤。炎の色。
「ローズちゃん! ダメだ、落ち着いて!」
「――――――ッ!」
 声にならない声を上げた瞬間、熱さに体を竦ませた。
 あまりの感情の高ぶりに魔力を制御できず、暴走させてしまったのだと気付くのに数秒。辺りには無数の火が飛び散っていた。
「っ!」
 見れば、それはファイにも降り掛かっていた。火傷の個所は赤く爛れていた。
 それを手で押さえ、苦痛に顔を歪める彼に、ローズは息を飲む。無意識の内に声を抑えるかのように、口元に覆っていた手の指先を噛んだ。
 ああ、どうして。泣きそうになるのを必死に耐えた。ローズはこんな事は望んでいなかったというのに。

 ――望んで、いなかった?

「え?」
 同じような事が、かつてなかっただろうか? なかった。いや、あった?
 脳裏を掠める、炎の海。灼熱。燃える家屋。燃える人。そして、自分――?
 それは、懐かしい、と言うにはおぞましい映像だった。それでも、確かにローズはそれを経験していた。
 かつて、村の悲劇を齎したのは――、
「わ、私……? 私、なのか?」
 声が、震える。頭が、考える事を拒絶する。
 それでも、ローズにはもう分かっていた。考えずに、思い出さずにいる事など不可能だった。残酷にも、蘇り始めた記憶は止まらない。
「ローズちゃん?」
「あの、村を! 火の海にしたのは! 私ッ!?」
「ローズちゃん! 思い出さなくていいから!」
 惨劇の中心には、黒い髪の少女。そこには、幼いローズがいた。そうだ、ローズが魔力を暴走させたのだ。
 受け入れたくない真実に、ローズは瞠目する。
 今まで失くしていた、記憶の断片。求めていた、もの。
 それでも、苦痛に、表情が歪む。かたかたと体の震えが止まらない。
「い、いやあぁぁぁぁぁぁ!!」
 張り裂けるような絶叫を上げて、ローズはファイに背を向けて走り出した。
 ファイの声など全く聞こえないかのように、ただ、夢中になって。自分の犯した罪から逃れたいかのように。







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