True Rose
〜灰の降る世界〜
1
断続的に鳴り響く金属音は、剣と剣を交える音だ。鈍色を揺らめかせながら、剣は宙を踊る。
その中心にいる女は、彼女が持つには些か大き過ぎる剣を重さも感じさせぬ動きで振う。向けられる刃もまるで舞いでも舞うかのように優雅に躱してゆく。
その度に、腰よりも長い髪が風になびいた。足首が隠れる程長いスカートは、柔らかい素材で出来ている為にさほど邪魔にはならない。
それでも、多勢に武勢。この程度の相手に負けるとは露にも思わないが、些か分が悪い事は確かだ。
なかなか減らない敵の数に、痺れが切れて来た。忌々しげに表情を歪める姿は折角の美人が台無しである。
「……あーもう苛々する!おい、ワイン頭!あれ、使ってもいいか!?と言うか使うぞ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!今のご時世、そんな事したら本当に処刑されるって!」
女に答えたのは、深紅の髪がとても印象的な男だ。太陽の光を浴びるそれは美しく、今、このような状態でなければ、その姿を綺麗だと、何人の女が呟く事だろうか。
彼らは、背中合わせで剣を振るう。その瞳にあるのは、互いへの信頼。それもその筈であろう、十は越える敵に囲まれた中の唯一の仲間なのだから。
「隠蔽すればいいだろうが!使うからなッ!」
「ローズちゃん!?ローズちゃんってば!ちょ――ッ!?」
未だ納得していない男に構わず、ローズと呼ばれた女はその場から離れた。暫く敵を引き付けておけ、と男――ファイに命令するように吐き捨てて。
男の追撃をかわし追い掛けて来る敵から逃げるように、その間に多少の距離を保つ。
ちらりと横を見れば、齡数百年に見える立派な樹木。空へ届きそうだと錯覚しそうなくらい高く枝を伸ばすそれに、鮮やかな紅の唇が緩やかに弧を描いた。
静かに瞳を閉じて、詠うように言葉を紡ぐ。
「“大樹よ、深緑よ、我に力を貸したまえ………!”」
凛とした、涼やかな声が空気を震わせた。まるで何かが呼応するかのように大気が震える。
刹那、光の粒子がローズに集中する。柔らかく温かなそれに包まれた、そう思った瞬間、収束した光は爆発した。
蔦が走り、木の葉が舞い、それら全てが意思を持ったように対峙する敵へと向かう。
「“彼の者を捕える鎖となれ。その腕へ誘え”」
ローズの口から囁きのような声が溢れ落ちた瞬間、蔦は敵へと絡んだ。まるで彼らの身動きが取れぬよう拘束するように。
ふわりと髪が舞う。ローズを包み込んでいた光は落ち着き、徐々に薄れゆく。
蔦に拘束された幾人もの男達を見て、ローズは溜め息を漏らした。共に戦っていた男も、ローズとはまた違った理由で溜め息を落とす。
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