True Rose
 〜灰の降る世界〜



「いつもながら、綺麗だねぇ、ローズちゃんの剣は」
「馬鹿言ってないで、さっさと終わらせろ」
 ふざけたようなファイを、睨むように一瞥する。
 面倒だと言って、ローズは魔術を使うが、決して魔術なしで彼女が弱い訳ではない。これでも、剣の訓練は充分に積んでいる。それはローズ曰く、腹立たしい事にファイの指導の下で、だ。
 つまりは、ローズ以上にファイは強いのである。ローズよりも敵を倒すのに時間が掛かっているようだが、遊んでいるに過ぎない。そういった部分がまた、ローズがファイを嫌う理由だ。
「ああー、機嫌悪くしないでよー。………君たちのせいで、ローズちゃんの機嫌損ねちゃったじゃないか、君達弱すぎ。そんなに弱いから、やる気になんないんだよー」
 盗賊達へ向けて、ファイは溜息を吐く。馬鹿にされている事が分かった彼らは、なっ、と声にならない怒りを上げるが、歴然とした力の差は理解し始めていた。
「終わりにしようか」
 ファイの唇が、小さく弧を描く。笑みを浮かべているにも関わらず、後退りたくなるよう空気。全てを圧倒するかのような、存在感。
 盗賊達は、理解した。とてつもない存在を相手にしてしまっている事に。
 彼にとって、今までのものは準備運動にもならない。自分達では、傷の一つさえ付ける事は出来ない。
 空気が震える。それは、何によるものか。
 ゆらり、とファイが動き出した。静かな、青い炎を思わせるような。

 ―――ほんの、刹那の事だった。それから、全てが終わるのに掛った時間など。
 常人には、とても目で追い切れるようなものではなかった。速い、という言葉では表し切れぬ速さ。それは疾風の如く。
 まるで精巧な時計が時を刻むかのような、正確な、寸分の狂いもない、太刀。動き。そこに一切の無駄は存在しない。全ては、計算されたもの。
 ローズは、ただ魅入った。美しい剣とは、こういうものを指すのだ。まだ自分は届かない。そして、届く事もないだろう領域。
 ファイが、ただのふざけた男ではない事を、度々思い知らされる。自分は、彼の何が、見えているのだろう。彼のこれは、恐らく背負ったものの差だ。彼の過去が、そうさせる。
 静かにその横顔に視線を向ける。そこに、表情はなかった。冷たい、顔。果たして、彼は何を背負っているのだろう。ファイは語らない。それ故に、ローズも聞けずにいる。


 ローズもファイも、盗賊達を誰一人として殺す事はなかった。彼らはそうされるだけの罪を犯して来てはいるが、それを断罪するのは自分達ではない。
 とりあえず、逃げられないようにきつく縄で縛りあげてはいるが。これから彼らを村の警備にあたる者達に送り届ける事になるが、それよりもまず、
「で、アジトは何処にあるのかな?」
 にっこりと笑い、ファイは問う。先程の面影はない。しかし、圧倒的な力を見せつけられた盗賊達に、平然としていられる筈がなかった。
「こ、こ、こ、こ、ここから西に行くと、小さな山小屋がありましてッ!そ、そそそそこですぅ!」
 恐怖に震えながら、あっさりと吐いてくれた。その姿は情けないが、仕方のない事なのかも知れないな、とローズは静かに思う。
 小さく溜息を一つ吐くと、西の方へと視線を向ける。盗賊が、馬も使わずに徒歩でいるくらいなのだから、そう遠くはないのだろう。
「行く、か」
「そうだね。一掃しなきゃ意味がないからね」
 笑みを一つ浮かべたファイの言葉に、ローズは歩を進め出す。それを追う形でファイも歩き出すが、ローズはファイとの間に距離を感じざるを得なかった。 
 自分は何も、彼の事について知らない。自分と出会うまで彼が何をし、何故旅を続けるのか。何も知らない。信頼されているのだろうか、そんな疑問が微かに脳裏から離れない。
 手の届きそうな所にいるというのに、こんなにも遠い。その笑みが、何故か壁のように感じられてしまった。






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