True Rose
 〜灰の降る世界〜




 黄土色の地面に、ローズとファイは足跡を付けていく。
 周囲を見渡せば、鬱蒼と茂る木々。随分森の深くまで来たようだ。人が通る事など少ないのだろう、足跡はローズ達のもの以外殆どなかった。
 自由に枝を伸ばす木々や生い茂る葉により、死角が多くある。襲おうとしようとしている者にとって都合の良い事、この上ない。
「なるべく、目立たないように、な」
「分かってるよ。寧ろ、それはローズちゃんじゃない? 魔術はダメだからね?」
「分かってる」
 そう短く、不機嫌そうにローズは答える。
 何故、自分は人に隠れて過ごさねばならないのか。仕方のない事だとは理解していても、不愉快な事この上ない。自分は何も悪い事はしていないと言うのに。
「………」
 不意に、ローズとファイは顔を見合わせた。
 人の気配を、周囲に感じたからだ。しかも、複数の、不自然に息を潜められた。まばらなそれは、二人を囲んでいるようだ。
 それらは、明らかにこちらの動向を伺っていた。
(……大した事はなさそうだな)
 息の殺し方が、明らかに素人過ぎる。商人などといった者程度にならば、気付かれないだろうが、あまりにもお粗末だ。この程度のものか、と嘆息を漏らした。
 小さな、小枝を踏む足の音。それは後ろからだった。ローズは腰に吊るした剣へと手を掛ける。
 するりとそれを抜くと、そのまま振り向き、向けられた剣を防ぐ。金属と金属とがぶつかり合う音に、剣を向けてきた者が――盗賊が、驚きに目を見張った。まさか、防がれるとは思ってもいなかったのだろう。
 ローズは、小さく笑った。わらわらと他の盗賊の気配が寄って来るが、それでも余裕の笑みを浮かべている。それは、ファイも同じだった。
 小さく舌打ちをしたのは、ローズでもファイでもない。ローズにまず剣を向けてきた盗賊だった。力量を量り違った事に気付いたのだろう。それでも、態勢を立て直すと再び刃を向けて来る。
 当然ながら他の盗賊が、ただそれを見ているだけの筈もない。それに加えて、他方からも遠慮なく剣は向けられる。
 しかし、多くのそれら、どれもローズを捕まえる事は出来ない。ローズは、舞でもを舞うかのように軽やかにかわし、防いでいく。
 銀色の描く弧は、ローズを害そうとしているにも関わらず、まるで彼女の舞を彩る演出のようにさえ見える。それだけ、彼女と彼らとの間には歴然とした力の差があった。
 飾り気のない長いスカートが、ローズが動く度に揺れる。それは、花弁のように。柔らかに、美しく。まるで、荒野に咲いた一輪の花。





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