True Rose
 〜灰の降る世界〜


「ローズちゃん!でもさ…」
「分かっているだろう?忘れた訳ではあるまい?」
 あの光景を。あの惨状を。一面、火の海となった忌まわしい出来事を。
 ローズの村が焼かれたのは、そういった理由だったと言ったのはファイだ。魔女を匿ったからだ、魔女の仲間だ、同じく神に仇為す者なのだ、と。
 ローズは同じ惨状をもう見たくはないのだ。記憶にはない。それでも無意識下ではあれがどれ程酷いものだったか、多分覚えている。
「見たくない、とお前は言っただろう。私も見たくない」
 自分の所為で他人が殺されるなど耐えられない。そんな事にはなって欲しくない。
 自分達には、他人の人生を左右する権利などないのだ。
 それなのに、ファイは毎度毎度他人と関わる事を好む。困っている人間は見捨てられない。
 ローズも、それはファイの美点だと思っているが、今回は現在この町には騎士団がいるのだ。普段よりも数倍危険が伴う。
 ――そう、危ないのだ。自分達と関わる事は。
 魔女、という存在は世界の異端。それだけで、罪なのだ。他人を巻き込み、傷付けてしまう。

「……ねぇ、ローズちゃん」
 二人の間に流れていた沈黙を、ゆっくりと破ったのはファイだった。
 眉を寄せ、黙り込んでいたローズに向けて、その声はそっと落とされた。そこに見えるのは、優しさと悲哀。
 ローズが傷付き、心を痛めている事は、恐らく彼女以上にファイは知っていた。
 二人で旅を続けて来た中で、彼女は幾度も幾度も傷付いて来た。それは、彼女が魔女であるが故に。
 同じ人間から、受けた傷。齎された痛み。
 それは、他人と関わる事を臆病にさせている。自分が生きている事に呵責を感じさせている。
「……結果を恐れてばかりじゃいつか後悔しちゃうんだよ?」
「!」
「恐れて、自分のしたい事を我慢してばかりだったら、後で絶対に後悔するんだ」
 それでも、そう、何処か強い口調で言い切る。
 その言葉には、何故か、重みが感じられた。まるで、多大な後悔をし続けて来たかのように。それを今も悔いているかのように。
「……だが…」
「大丈夫、あれくらい俺一人でもどうにでもなるから、ローズちゃんは待っててもいいよ。
……ねぇお姉さん、それ、俺達がどうにかするから」
 そう言って、ファイは晴れやかな笑顔で笑った。
 ローズはそれ以上何も言わなかった。ここで言える事は何もなかった。
 ただ、向ける視線と己の無力さに、一人手を握り締めていた。







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