True Rose
 〜灰の降る世界〜


「それが……、この町の西方に山があるんです」
 ファイの言葉が咎めるものではないと分かると、躊躇いながらも話をし始めた。
「ああ、あの良く緑の茂った森か」
「ええ。この町に来るには唯一、あの山を越えなければいけないのですが、最近あの森に山賊が出るようになって……」
  あれの事か、とローズはつい先日の記憶を辿る。
 この町に来る途中に襲われたが、襲って来た者達は確か山賊だと言っていた気がする。
 目立った頭のような存在も見受けられなかったし、今話に出ている山賊の一部なのだろう。
「商人は襲われていますし、これでは食料を運ぶ事もままなりません」
「そっか…」
 悲壮感漂う表情に、ファイが痛ましげに眉を寄せた。あれは出来るならどうにかしてやりたい、と考えているような時の仕草だ。
 事実、あの程度の相手であればどうにでも出来るだろう。それでも、やたら手を出せば目立つ事になるし、目立てば魔女だという事が露見する可能性もある。
 常にローズとファイはそういった危険を伴っているのだ。出来る限り関わらないに越した事はない。
 それはファイも分かっているだろうに。
「駄目だからな」
 呟くように言って、席を立つ。
 離れていたが、厨房の人間達がこちらを向いたのが分かった。僅かに詰められた息は、その言葉ではなくローズの不吉な黒髪に向けられたものだったのだろう。
「ローズちゃ……」
 ローズの言葉は、ファイには届いていた。それ故に、苦悶の表情を浮かべていた。
 それを見つめながら、ファイの前へとたった。そしてもう一度繰り返す。
「駄目だからな、今回は手を出さない」
 絶対の否定を込めて、ファイを強い瞳で見る。
 可哀想だとは思う。それでも自分達は極力他人に関わるべきではない。もし、魔女である事が露見すれば、最悪、関わった人々まで魔女扱いされる。そうして殺される場合もある。
 そういった覚悟がないのであれば関わるべきではない。





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