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‐ウロボロス‐
Edge of Ouroboros 3

 「うまそうだな」

 男たちは唇の端を吊り上げて、下品な笑い声を漏らした。

 「恥さらし共が……」

 上方から見下ろしていたヨルは、吐き捨てるように呟いたあと、煉瓦を蹴り、高い建物の屋上からふわりと地上に降り立った。

 「サディ、俺がやってもいいぞ」

 長い黒髪とコートを軽く直しながらサディの横に並ぶ。

 「何だ、お前ヴァンパイアだろ。俺達の仲間じゃないのか?」

 「仲間さ、だから気高きヴァンパイアの恥が外部に知れ渡らぬうちに片付けようというわけさ」

 サディが二人組を見たまま、軽く片手を上げ、ヨルを制した。

 「大きな争いに発展させないために、私たちが仲介することも出来ますが」

 それこそが、ウロボロス調停官のもっとも重要な役割である。

 しかし、男たちは嘲笑で答えた。

 「大きな争いに発展させたいのさ」

 「今度こそ、犬畜生どもを根絶やしにしてやる」

 「サディ、云っても無駄のようだぜ」

 シンラが云うと、サディは残念そうに肯いた。

 こういったトラブルは後を絶たないどころか、近年増加する傾向にある。

 特にウロボロス戦争の教訓を忘れつつある若い世代に多いようだ。

 しかも、単なる喧嘩ではなく、抗争を広げようとする意思が明らかに感じられる。

 個人の思いつきではなく、ヴァンパイアにもワーウルフにも組織立ったものがあるのかもしれない。

 サディがそのことを質(ただ)すと、ふたりのヴァンパイアはにやにや笑いながらしらばっくれた。

 「さあねぇ、犬っころのことまでは知らねえな」

 自分たちのことは否定しない。

 「あんたが来る前にこいつらが話していたが……」

 ヨルが口を挟む。

 「どうやら、再び戦争を起こそうとする連中が居るのは間違い無いようだぜ」

 サディは黙って肯いた。

 一度、双方のリーダーと話してみる必要があるのかもしれない。

 ワーウルフの部族長たちは、人間嫌いだがウロボロスの協定には理解がある。

 問題はヴァンパイアのほうだ。

 ……アンテデルヴィアン。

 サディはその名を思い浮かべると、一度も会ったことがないのに背筋が寒くなった。

 アンテデルヴィアンとは個人の名前ではなく、「第三世代」とも呼ばれる現存する中で最も古いヴァンパイアたちの総称ある。

 それぞれの氏族の長である彼らは、普段は長い眠りにつき、居場所どころか生死さえも不明なものが多い。

 しかし、その影響力は眠っていてさえも世界に災害や恐慌を起こすほど強大であると云われている。

 調停官を務めていれば、いつかは彼らに相対せねばならないだろう。

 だが、それよりも今は当面の問題が先決だ。

 サディはふたりのヴァンパイアにもう一度警告したが、返答は変わらなかった。

 「何度訊いても同じことだ。人間ごときに――そして、人間に使われる闇の住人ごときに何が出来る」と笑うばかりである。

 「再び戦乱の火をおこそうとする愚か者ども……どうしても争いを止めないと云うのなら」

 サディは前方のふたりを、その嘲笑が消えてしまうほどの眼力で睨み据えた。

 「ウロボロスの盟約に基づき、刑を執行します」


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あきゅろす。
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