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†涙目のサディ†
1.暗闇の森(2)

 「ご親切にありがとう。でも、勝手に食べたりすると奥さまにしかられるんです。それにもう夕食のしたくにかからないと」

 「いいんだよ、サディ。もうお前はなにもしなくていいんだ」

 ガラはいかにも幼い子に言い聞かせるようなやさしい声を出しました。

 「このままここでこき使われていれば、きっとお前は死んでしまうよ。だからこの家を出るのさ。そのほうがお前には幸せなのさ」

 なぜか最後のほうは自分に言い聞かせるような口調になっていましたが、サディは思いがけないことを言われたのでそんなことには気づきませんでした。

 「おやしきを出るですって!? それは奥さまがおっしゃったのですか?」

 サディは驚いて大きな目をさらに大きく広げました。
 彼女は物心ついたときから一度もお屋敷の外に出たことがありませんでした。
 彼女にとって「世界」とはお屋敷の敷地の中のことで、「人生」とはここで馬車馬のように働くことでした。
 外の世界を想像したことはあっても、自分が出ていくことなど考えたこともなかったのです。

 「あたしたち使用人みんなで決めたのさ。この先の森に魔女が住んでいる。そこに行けば今よりずっと良い暮らしができるよ」

 「そんな、勝手におやしきを出るなんてできません。それに魔女だなんておそろしいわ」

 サディはやつれた顔を横に振りました。
 しかしガラは、もう決まったことだと言ってききません。

 「お前は知らないだろうけど、魔女には良い魔女と悪い魔女がいるんだ。その森の魔女はとても良い魔女さ。きっとお前を歓迎してくれるよ」

 ガラはそこまで言うともう返事は聞かずに、サディの細い手首をつかみお屋敷の門のほうへどんどん歩いていきました。
 近くにいた使用人たちも誰も止めようとはしません。
 それどころかみんな見て見ぬふりをしていました。

 サディはまだ持ったままのほうきといっしょに引きずられながら思いました。
 自分が頑張って仕事をすれば、その分やることが無くなった使用人は辞めさせられてしまう。
 彼女たちにはほかに仕事が無いのだ。


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あきゅろす。
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