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†涙目のサディ†
3.新しい生活(10)

 「フレイヤ、わかっているでしょう。待っている時間はもうあまり無いのよ」

 魔女といえども、永遠に生きられるわけでありません。
 賢者と呼ばれるフレイヤですら例外ではないのです。
 お互い口には出さないけれども、残された時間はそう多くはないと思っていました。

 「次にまた誰かがここを訪れて来るかもしれないし、来ないかもしれない。それはあの子より有能かもしれないし、無能かもしれない。でも、あたしはこの時期にあの子があなたの前に現れたことに意味があると思うわ」

 フレイヤは目を閉じて小さくうなずいたあと立ち上がりました。

 「でもね、人をひとり預かるというのは、猫が考えているより大変なんだよ」

 「どうやら、決まったようね」

 ツキは少し目を細めました。

 「きっと、猫が考えているより、たくさん楽しみが増えると思うわ」

 そう言って、歩き出したフレイヤのあとに付いて部屋を出ました。



 ときどきサディはほうきで飛ぶ練習をしました。
 練習といっても、どうすればよいのか分からないので、とりあえず庭に出て、自分が持って来たほうきにまたがり、何ごとか念じながらじっとしているのです。

 「はたから見るとけっこうまぬけだな」

 ヨルが木の枝の上から素直な感想を述べました。

 「しーっ!」

 シンラが頭上をにらんでいるとき、書き物をしていたフレイヤがツキを連れて外へ出て来ました。
 フレイヤは腰に手をあて、身体を曲げて全身のこりをほぐしたあと、サディに訊ねました。

 「本当に魔女になりたいのかい?」

 サディはうなずきました。
 そうでないなら、ここに置いてもらえないと思ったからです。
 最初はただ一人では生活が出来ないという理由からでした。
 しかし今では、フレイヤからもっといろんなことを教わりたいと思う気持ちのほうが強くなっていました。

 「魔女になると苦労も多くなるよ。あんたは今までも十分苦労してきたようだけどね」

 そして少し間をおいて「まあ、それでいいと言うなら、好きなだけ居たらいいさ」と言いました。

 「はい、ありがとうございます」

 使い魔たちは、めずらしく――おそらく初めて――サディの明るい声を聞いた、と思いました。

 「今度ルーシアに新しいほうきを持ってこさせないとね」

 そう言ってフレイヤは家の中へ戻って行きました。

 「良かったわね」

 サディの足もとで、ツキが目を細くして見上げていました。



 第三章

 新しい生活   了


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あきゅろす。
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