飴音 「正一」 眠気と戦いながら資料のチェックをしていると頭の上から声が降ってくる。 と、言ってもヘッドホンで音楽を聴いていた正一は肩をツンツンとつつかれ初めて自分が呼ばれた事に気が付いたのだが。 見上げればそこにいたのはいつものように飴をくわえて立っているスパナだった。 「スパナ!?なんでここに…入るときはちゃんとノックして――」 「した。」 ヘッドホンを首までずらして彼に注意を促せば最後までいい終わらないうちにそう答えられる。 間近で呼ばれて気がつかなかったのだからノックの音が正一に聞こえるハズはない。 「……そ、それで?何しに来たんだ?」 「んー…正一補給。」 正一が聞くとスパナは少し考えるそぶりを見せてからそう答えた。 「は?何、補給…?」 「ん、補給。」 正一の問いに小さく首を縦に振って答えたスパナはくわえていた飴を取り出してからぐいっと正一のアゴを持ち上げて上を向かせる。 補給ってまさか… スパナが言った言葉の意味を理解した時にはすでに遅く、正一の唇はスパナのそれによって塞がれていた。 「ん、むぅ…っ、ふ、ぁ」 無理矢理侵入してくる舌に戸惑いスパナを拒む事も応えることも出来ず、されるがままになる。 「ん、ん……はぁっ」 自分勝手に正一の口腔を蹂躙したスパナのそれがやっと離れた。 「正一…苦い。」 「ふぇ?…あ、コーヒー、飲んでたからかな…」 少し渋い顔をして飴を口に含み直してから言ったスパナに正一は手元にある残り少なくなったコーヒーの缶を少しいじってから間違って零さない位置に移動させる。 そんな正一の手元をじっと見つめていたスパナはゴソゴソとツナギのポケットを漁って飴を取り出した。 ビニールの包装を破って中の飴を取り出すと何を思ったかそれを正一の口に突っ込む。 「んぐっ、な…なに…」 押し込まれた飴はメロン味でその甘さがふわりと口の中に広がる。 「カフェインばかりは体によくない。糖分もとらないとダメだ。」 「え、あ…そ、そうだね。ありがとう、スパナ。」 お礼を言うとスパナは満足そうに小さく笑みを零し正一の頭をくしゃりと撫でた。 その後も手をどける気配は無い。 スパナの表情を伺う。 「っ…スパナ?」 心配そうに見下ろしながら髪を掻き交ぜてくるスパナに正一は少し驚いて名前を呼ぶ。 「あまり…無理はするな、正一。」 それに答えるようにポツリと零された言葉。 「ウチは正一が心配。」 またポツリと零すような言葉。気をつけていないと指の間から逃げて行ってしまいそうで。 「じゃあ、ウチは戻る。」 正一補給も済んだし。と付け加えたスパナは正一に背中を向け入口に向かって歩き出す。 嫌だ、行かないでくれ。 お願いだから、僕を置いて行かないで…。 何故だかものすごく不安な気持ちになった。 今ここでスパナを帰したら二度と会えなくなりそうで怖い。 「…ナ……スパナッ!」 気がつくと正一は椅子から立ち上がりスパナの名前を呼んでいた。 叫ぶようなその声にスパナは立ち止まり振り返る。 「?どうした、正一。」 「や、あの…その……」 スパナが行ってしまうのが不安で呼び止めたはいいもののその後をまったく考えていなかった正一は口ごもる。 「ご、ごめん、ありがとう。」 口をついて出たのはそんな言葉だった。 「え?」 「や、ほら…心配かけてごめん。心配してくれてありがとう。って…ゆー事、かな?」 自分でも言っている事がよく分からなくなりどんどん顔に熱が集まり始める。 恥ずかしい。 スパナがいなくなるのを不安に思った事も、訳の分からない発言をしてしまった事も。 耳まで真っ赤に染めて俯く正一の前までゆっくり歩みよったスパナはそこでニッコリと笑う。 「え、スパナ…?」 それを上目使いに盗み見ていた正一は思わず顔を上げた。 「正一、好きだ。愛してる。」 「い、いきなり何を…っ!」 スパナの突然の告白に正一はさらに顔を朱く染める。 「正一は?ウチの事、好き?」 「え?あ…す、好き。」 ほぼ無意識に答える。 正一の答えに満足したのかスパナは小さく頷いた。 「それなら正一はウチのためにも無理するな。」 「す、スパナ…?」 「ウチは正一に無理して欲しくないから、だからウチの事が好きなら正一は無理しちゃだめだ。」 自分勝手な、でも正一を心配しているからこそのスパナの言葉。 「わ、かったよ。無理はしない。」 「うん、それなら…いい。」 額に触れるスパナの唇。 スパナの飴の棒が少しくすぐったい。 大切なんだ、大好きだよ…正一。 そんな風に言われたような気がして―――。 「正一が大切。正一が大好き。」 「え…っ」 スパナに言われ、目を丸くする。 「スパナ…僕の考えてる事、分かったの…?」 自分の考えてる事とまるっきり同じ事を言われたもんだからありえないと分かりつつも思わず問う。 なんのこと?と首を傾げるスパナに正一は、なんでもない。と嬉しそうにはにかみながら言った。 「正一、ウチは死ぬまで正一と一緒にいる。」 普段なら顔を真っ赤にして恥ずかしさから思わず逃げてしまいそうな言葉だったけど、何故か今は素直に受け止める事が出来た。 「嬉しいよ、スパナ。ありがとう。」 今日何度目かわからないお礼を言って正一はスパナに押し込まれた飴の棒をきゅっと握る。 「よし、じゃあ僕は仕事の続きするよ。……スパナは?」 「ん、ウチも戻る。作業の途中だし。」 「そっか、じゃあまた。」 「ん。」 小さく頷いて部屋の入口に向かうスパナ。 スパナが出ていくのを見送ってから椅子に腰をおろし机の上の資料に向き合う。 「はぁ…」 資料の多さに思わずため息をつく。 その時口の中で飴が歯にあたりカラ、と小さく音をたてる。 それだけの事なのだが、どうしようもなく嬉しくなった。 「なんでかな…」 くすりと笑いを零しながら誰にでもなく質問を投げかける。 そっか―――…。 飴の音はスパナがいる時、いつも聞こえてる音だから。だから嬉しくて、落ち着くんだ…。 自己完結で最高の答えにたどり着いた正一はまたいつ終わるか分からない資料のチェックに取り掛かった。 ―――――――――― はい、えっと…グダグダですねorz とりあえず二人をラブラブさせたかったんですが… してないなぁ… しかもオチて無いですね;まぁよい、全ては狐々亜クオリティだ。(( '09.11.6 [*前へ][次へ#] [戻る] |