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バレンタイン
黙って仁王立ちをする正一の視線の先にはピンクや赤で彩られたチョコレート売り場。
そこには当然の如く女の子達がきゃあきゃあと群がっている。
今日は2月14日。
そう、バレンタインデーだ。
正一はスパナにチョコレートでも贈ろうかと買い出しに来たのだが売り場を見て立ち尽くした。

「やっぱ…ムリッ!」

くるりと踵を返しその場を逃げるように去る。
こんな売り場で男の自分がチョコなんか買える訳が無い。
バレンタインにチョコがもらえなくて自分で買いに来た寂しい奴だと思われてしまう。

「はぁ。」

小さくため息をつき、バレンタインで賑わう街を一人で歩く。
俯き気味に歩いているとドンッ、と誰かにぶつかってしまった。

「す、すみません…」

追突の衝撃でズレた眼鏡の位置を直し顔をあげる。

「あれ…?スパナ!?」
「ん、ウチだ。」

そこにいたのは見慣れた金髪だった。

「外で会うなんて珍しいね。どうしたんだい?」
「飴の材料が切れたから。」

そう言いながらスパナが手に持っていた大きな紙袋を持ち上げる。

「そっか。じゃあもう帰るとこ?」
「ああ。…正一は?」
「うん、っと…散歩してたんだけどそろそろ帰ろうと思ってたんだ。一緒に帰ろう。」

チョコレートを買いに来た、なんて言える訳がないだろう。
くるっと方向転換をしてスパナの隣に並んで歩き出す。

「今日は、カップルが多いな。」
「うん、バレンタインデーだからね。」
「そうか…。正一はチョコ、もらったのか?」
「は?えっ!?いや、もらってない。スパナは?」

チョコ、という単語に過剰に反応してしまう。
しどろもどろになってしまったが怪しまれなかっただろうか。

「…じゃあ、誰かにあげる?」
「そ…そんな訳ないだろ!僕は男…だ!!」

さらに正一が何をしていたのか知っているような問い掛け。
本当は知っているんじゃないかと心臓が早鐘を打つ。

「そうか、残念だ。ウチ、正一からのチョコレート楽しみにしてたのに。」
「な、……んっ!?」

正一の言葉のほとんどは一瞬触れたスパナの唇によって止められてしまった。
何が起きたのか理解出来ずに固まっていた正一だが意識がだんだんと回復するにつれ顔が赤く染まって行く。

「す…ぱな!?なにやってるんだよっ!人が…」
「大丈夫だ、正一。もう誰も見てない。」
「えっ?」

スパナに言われ回りを見渡すと先程までたくさんカップルがいた商店街では無く、静かな公園の入口だった。
気付かぬうちに人通りが少ない場所まできてしまっていたらしい。

「チョコレート、くれないのか?」
「………っ」

もう一度近い距離で不安そうに言われ、正一は返す言葉を無くしてしまう。
何も用意していないとは、言えない。

「……目、閉じて。」
「?…ん。」

目を閉じたスパナの顔に自らの顔を近付け、停止。
意を決してちゅっ、と触れるだけのキスをする。

「しょ…いち?」
「チョコ、買えなかったから…」

今更ながら自分のした事に恥ずかしさが込み上げてくる。
真っ赤になっているであろう顔を見られないように俯く。

「正一、顔あげて?」
「無理ッ」

スパナに言われ、それを絶対に嫌だと断れば頭の上でクスリと笑う気配。
そのあとにフワリと全身が心地良い匂いと温もりとに包まれた。


「grazie、正一。すごく嬉しいよ。」


ぎゅっと抱きしめる力が強くなりスパナの気持ちが伝わってくるようで正一まで嬉しくなった。



―――――――――――

一ヶ月以上遅れてやっと完成です!(
とりあえずぐらっちぇのスペルが合ってるのか心配です…。

'10.3.16

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あきゅろす。
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