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めいん
傍迷惑な夢見人。
※ご注意※
この小説は三成女体化です。
しかも三家です。
三成→三子と呼ばせています。
それで良ければ……







東照権現は苦悩していた。
否、苦悩ではなく、それは苦行レベルへ着々と昇華しつつある。それは、胸ぐらにすがり付く同僚が先程から甘く呟く声にあった。

「私と貴様に子どもが産まれた夢を見た」



それは自室にて溜まっていた仕事を片付けていた時に遡る。豊臣に下ったと言えど、三河の地を治める者には変わりない。問題はひっきりなしに浮上し、1つ解決しようとすれば2つ3つと事柄はより細分化していく。今日も、三河より使者が尋ねてきてなかなかに難解な話し合いを行っていった。


話はなんとか一様の方向性を見つけ、今日はこれでと使者は退室していった。途端、彼はその場で大の字に転がってしまう。この所、そろそろ三河を空けているツケが回ってきたらしく妙な難題が自分の元まで運ばれてくる。流石にひっきりなしのそれらにどっと疲れが増してくる。
高い鼻梁の付け根を暫しゆっくり揉んで、考えを巡らせる。

一回三河に視察も兼ねて帰郷しよう。それで、一気に仕事を片してゆっくり暇でも取るか。忠勝に新しい武器も載せてやりたいし、久し振りに鷹狩りでも行こうかと思案している内に、うつらうつらとしてまったらしく、とすんと意識は落ちていった。



「……お……!い……家康起きろ!!」

良く聞き慣れた声が、耳障りに飛び込んでくる。
彼は薄く目を開ける。銀髪に猫目石のような瞳と常に不機嫌そうな表情。間違いない。三子だ。

「ん?どうした……?」

目元をこすりつつ、ふわわわと気だるげな伸びをして起き上がろうとした。
が、柔らかい重さに邪魔されて動けない。

「やっと、起きたようだな」

三子の顔が正面に見える。そして、自分は大の字になって寝ていた。
柔らかな重み。
考察するにこれは……?

「み、三子、頼むから退いてくれないか……?」

しどろもどろの声にも彼女は動じない。

「何故だ?」

首を傾げ、益々不思議そうである。ここで力づくで退かしても構わないのだか、その後の制裁がどう来るか解らない。彼は慎重に起き上がる。
その体勢の方が若干良く思えたのだが、

「家康聴け。私と貴様に子どもが出来た夢を見た」

胸ぐらをいきなり捕まえると珍しい位喜色ばんだ声をあげるのだ。だから、それがどうした。早く退け。
この体勢は色々とマズイ。お前とワシはそんな間柄ではない。だから腰に足を絡めて来るの止めてくれ。こそばゆい。腰は特に弱いからとかなんとかかんとか、より良い言葉を考えあぐねていた。

「可愛らしい子だった。貴様……?……お前に似て利発そうで愛らしくて……」

今更気付いた事実がある。
酒臭い。太閣は大の酒好きである。きっと、朝方近くまで呑めない酒を付き合って、深酒してしまったんだろう。半兵衛や大谷は体に障るので、酒は控えている。そうすると、自ずと彼女しか残らないのである。
それならまだ理解出来るか……と納得しかけた思考を彼は急激に方向転換させる。
状況を理解して更に事は悪化した気がする。彼女の酒癖の悪さはかなりである。

陰口を叩いた家臣を真冬の池に投げ落としただの、遠征先の旅籠で屋根の上に登って猫の真似をしただの、挙げればキリがない。
そして、本人にはその記憶は全くないときている。つまり、今回も酩酊状態での凶行となる。前回の様に

『家康っっっうっ!!刻んでやる。首を寄越せ!』

と酒瓶でも帯刀しつつ来ればまだ対処の仕方はあったのだが……。

「ややことはあんなに愛苦しい物だったのだな」

膝の上で悦に入られてしまっては、どう声を掛ければ良いか困惑してしまう。心なしか紅潮した頬も乱れた着衣も艶かしく写ってしまうのは気のせいである。
うん。
そうしておかなければ、身が持たない。
平常心、平常心、平常心、平常心念じつつ、彼は三子に説得を試みようとする。

「で、ややこはいつ作るんだ?」

たった三文字の言葉は、最早最果てへすっ飛んで行ってしまった。自分の頬にも赤みが差すのを感じる。喉が乾いて、目線なぞ合わせられるはずもない。思わず手で顔を覆った。
ややして、冷たいヒヤリとした感触が手の甲に走った。
さらさらと衣擦れの音が耳元でする。

「何をしている?家康?」

常とは違う甘い声が強引に手を剥がす。

「………………」

どんな顔でもいい。
兎に角、恥ずかしい。
いっそ、後ろに倒れらればなんと楽だろうに。今は両手を押さえ付けられている為、それすら叶わない。

「退いてくれないか?赤ん坊は…………ワシらはそんな関係ではない」

結局、そんな平々凡凡な言葉はしか出てこない。視線を外し、必死の訴えを行う。

「何だ?その言い草は?私の正夢をふいにすると言うのかっ!」

見事に酔っ払い理論が炸裂している。
本当に止めて欲しい、そろそろそんなに脆くもないはずの涙腺が綻び始めた。
彼女は中性的な振る舞い多いが、時折息を飲む程の女らしさを匂わせる事がある。
彼もまた男である。気にならない訳がない。しかし、それはそれこれはこれである。もし、こんな所で何かあってしまえば、一番の被害者は彼女である。
それに彼にしてみれば寝耳に水な行動だったのだ。

(嫌われていて、当然だと思っていたんだがなぁ)

いつも辛辣な物言いをし、二言目には秀吉様。それ以外には見えないのかと、思い違いをしてしまっていた。どうやら、自分は彼女の視野の外に居るのだと勝手に決め付けてしまっていたらしい。
それが、何だか少し嬉しくて、泣けてくるのだ。半分以上はあまりの強引さに閉口して居るのだが、

「さては、ややこの作り方が解らないのだな。案ずるな。私が手取り足取り享受させてやる!」

ほら、こんな具合に熱っぽく睨み据えて言い放つ。
勘弁してください。流石に長時間、座られた膝が笑ってきた。問答を繰り返す事にも忍耐も理性も持ちそうにない。
三子の顔が少しずつつ近付いてくる。女独特の甘い薫りがすっと香った。

「お、おい。待て!三子」

どうやら、何を言っても効き目はないらしい。
彼女の長い睫毛がふわりと閉じられて、柔らかな色を伴った唇が眩惑する。昼の長い陽射しが、その色の白い首筋と銀髪をゆったりと照らしている。
彼もとうとう観念して、閉眼する。諦めよう。諦めて、三河へ逃げ帰ろう。で、忠勝に新しい武器を載せて、楽しく鷹狩りをしよう。哀れ現実逃避が頭蓋の内をぐるぐるぐるぐると回り始めていた。しかし、その中に少しばかり喜びを孕んだ色も見つけ出して、苦笑する。
自分も一人の男なのだ。
この傍迷惑な同僚によって、久し振りに個になれたようなそんな気がする。
と、髪が胸に当たった。拘束されていた両の手が緩やかに離されて落ちた。胸元に感じる息は深く、規則的で。つまりは?お約束な展開のようで。瞳を開けると、愛しの彼女は先程までの勢いは何処へやら。
遊び疲れた子どもの様に眠ってしまっていた。
ほっとしたような、ほん少し残念なような。
彼は苦笑すると、彼女の頭を一撫でする。忙殺されそうな日々の中で見付けたこのこのふっくらと温かい感情。

(どうやら、三河に帰るのは少し先になりそうだ)

先程の疲労感は何処へやら、何だか変に充足感が胸に広がる。彼女は自分を見ていてくれたのだ。こんな形で知ってしまったのは少々寂しくもあるが、それが嬉しくてたまらない。
感謝の気持ちと、少々照れ臭さを覚えつつもその繊細な銀糸に口付けを一つ落とした。
刹那、襖が開いた。
嗚呼、最悪のタイミングで。

「家康君。少し聞きたい事があるんだけ……?……!?………ん?」

半兵衛の手から書物が力なく落ちた。瞳孔が小さく縮む。

「は、半兵衛殿!!!!これには訳がありまして……」

一番見られたくない人物に、見られた。鼓動が先程の倍以上ははね上がった。
三子を引き剥がそうとするもいつの間にか、腰にねっとりと絡まり離れない。

「家康あまり…………痛くするな」

その上、要らない寝言までくっついて来ている。
口は、弁明の言葉を捲し立て始めた。

「何か誤解されていると思いますが断じて違うんです。これは、三子が酒に酔ってじゃれて某の上に」

「解った。いいよ」

半兵衛は言った。
瞬間、家康は直感した。

「御託はいいよ。家康君。黙って沙汰を受けた方が潔くないかい?」

いつも帯刀している波切りがばらりと畳に落ちて鈍く光った。
普段なら鋭敏で影のある表情を浮かべる唇からは怒りの余りに鋭い八重歯がちらりと見え、瞳には戦場でさえついぞ見た記憶のない轟憤の激しい焔が舞い狂っている。

(何を言っても無駄だ…………)

三子は目に入れても痛くない娘同然の存在だとか言ってたもんなと、修羅と化した半兵衛が肉薄してくる瞬間家康は思った。




その後、半兵衛に半殺しにされた家康は誤解が解けるまでの5ヶ月と17日、三河の地で自室に引きこもる事となる。
そして、火中の三子は案の定その時の記憶がなくまた深酒を煽って第2、第3の被害者を作ったとか作らないとか。

くわばらくわばら。






一応、三家目指したけど後半、家三だな〜。
ま、家康ドンマイ。

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あきゅろす。
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