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めいん
アリガチしゅちぇーしょん
にょた▽→▲注意。





朝起きると、心底慕っていた同性が異性に変わっていた。
そんな夢物語だったら良かったのに。


三成は低血圧だ。
朝が弱い。
今日も寝床からぼーっと霞がかった瞳で天井を見上げている。


別に何も考えてない訳ではない。
けれども、昨日怪しげなお守りを売り付けに来た大友宗麟でもなければ、一昨日泣きじゃくる小早川秀秋をど付き倒した記憶を思い返してるのではない。


彼は恋をしていた。
許されざる恋。禁断の恋。その相手の事である。

その相手とは東軍の大将、徳川家康。
勿論、列記とした男性である。


本来ならば、敬愛する豊臣秀吉を手にかけた張本人である徳川に弑虐の感情すら抱いて不思議ではない。
けれども、逆に秘めた恋慕の感情が燃え上がってしまった真に稀有な例である。

勿論、一方的な片想いである。徳川にはそちらの気が髪の毛一本分もないに等しい。


その気のなさが三成の変態気質を目覚めさせてしまったらしく、只今西軍は東軍の兵を見つければ即刻生け捕りのスローガンを掲げ徳川の捕獲に全力を挙げている。


今、三成の頭の中では徳川の生け捕りに成功したらしくあれやこれな妄想している。
この状態が朝の慣例なので、家内の者も心得ていて軽く会釈をして朝食を襖の前に置いていく。
やがて、空腹を覚えた三成はやっと無想から醒め、いつものように朝食を摂る前に洗面にでも行こうかと徐に立ち上がろうとした。
しかし、なにとなく心地がおかしい。別段熱があるとか、倦怠感があるわけではない。ならば、昨日大友から買った願いが叶うとか言う御守りだろうか。何気なく、懐に手を入れて愕然とする。
鋼のようなしなやかな胸筋を持つはずの彼の胸に柔らかな膨らみが御守りの絹地と共に確認した。
しかも、二つ。
恐る恐る寝間着を開き、戦慄する。

「だっ誰か!居ないか!刑部!刑部!刑部!来い!」

声も甲高く女その物で益々不測の事態に混乱する。



間もなく何時ものペースで大谷吉継―刑部―がひひひひひ笑いをしながら襖の影から登場する。当然、手抜かりなく先に人払いを済ませている。

「ほぉ……随分と愉快な様だな。三成」

「笑い事じゃない!何だこれは!!」

「我は知らぬ。大方主が変わった物でも食したのだろ?」

「ふざけるな!私はお前と同じ物しか摂ってない!」

「若しくは昨日の願掛けか?」

刑部は三成の顔を覗き込んだ。
顔のパーツは変わらないものの全体的に小振りになっていて逆に瞳は大きくなっている。
それが、生来の美貌を遺憾なく発揮する形になっている。
(不憫な奴だ。女にでも産まれて居たら徳川もまちと気にはかけたかもしれないものを)
軍師は主の悲運を嘆く。
多分、三成の色恋沙汰の運のなさはあの暗の官兵衛にも匹敵するだろう。

「眉唾物とか罵りつつも、昨日必死の形相でそれに向かって何事か呟いていたのではなかったか?」
はだけた胸元に下がったそれを指差した。
それは何の変哲のない代物だった。桃色の布地で作られていて、小さな巾着のような形をしている。ただ、でかでかとザビー教の家紋が縫い込まれているのがその可愛らしい形や奥ゆかしさを台無しにしている。

「しかし……願いとはまるで違う」

「ほう。何を願った?」

「家康が私の物になりますように。家康を手に入れられますように。家康を入手出来ますように。家康が捕獲出来ますように。家康が――」

「あい、解った。もういい」

答えは聞かずとも解っていたはずだ。少しでもまともな答えを期待した自分が愚かだった。

「女になりたいなど、私は願った覚えなどない!!家康お前が女になればいい!家康ぅうぅうううーー!!」

空に向かって咆哮する。仕方なしに刑部は彼女になってしまった彼の胸元を直してやる。
そろそろこの男基友基三成に仕えるのが辛いと本気で思い始めている。
さっさと、捕獲でも捕縛でもしてくれればこの憂いは晴れるのだろうか。

「して、どうする?戸次川で撫で斬り千人でもして憂さを晴らすか?」

「いや、それは後だ。私に策がある」
「ほ?主が策か……」

「和議を申し入れる。大将二人きりで会う事を条件に盛り込みそこで本懐を遂げる」

「何かあれば本多が控えていると思うが」

「それは、お前が抑えて置けばいいだけの話だろう」

本格的に主をすげ替えたい瞬間。戦国最強の相手を軍師である自分に無茶振りする。そろそろ本気で、職活をしたい。否しなければいけない。

「して、本懐を遂げるとは、一体何を達する?」

「まぁ、見ていろ。時機に解る。……待ってろ!!!!家康、家康、家康、家康ぅううぅぅうう!!」

女が愛しい者の名を呼ぶのはもう少し情緒のある物だと思っていたが、正直ここまで無いのも珍しいだろう。美しい娘が喉も割れよと叫ぶのだから、更に興醒めだ。

「やれ、徳川よ。お前の上の凶星は相当近いぞ」

この時ばかりは刑部も東軍の大将に同情の思いを心底寄せていた。
外ではちゅんちゅんと雀が鳴き爽やかな朝を告げ始めている。
忘れ去られた朝食は冷めたまま主が気付くのをいつまでも待っていた。



事は存外上手く運んだ。和議の申し入れにも奇妙な条件にも東軍は快諾。
場所は真田の居城である上田城城下に決定した。更に配下の者は極力遠ざけ大将同士一対一の会話をする形を上手く取り付けられた。只、日取りを決めるのが少々難航し二月後となったが、それでも三成は満足らしく家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康、家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康叫びながら戸次川で千人撫で斬りを達成した。
大友曰くそれはザビー様が起こした奇跡です。あなたこそ愛の伝道者に相応しいと今にも勧誘されそうな勢いで言われたのでその場で止めを差した。また、女なっても三成は三成のままらしく剣速は神の如く朝の夢想は変わらず朝飯を冷やし続けた。変化があると言えば、狂喜の余り家康家康家康家康叫び続けながら斬り続けるものだから周囲に多大な音波被害も与えられるようになった位である。それが会談の日取りが近付くにつれて効力が上がっていくのだからたまったものではない。
刑部はこれを機に本気で職探しを開始したのである。


やがて、時は流れ会談の日。真田が用意したのは上宿の二階の座敷部屋。団子美味い所で某もよく行っていると要らない情報まで寄越された。
会合の時間まで二刻以上ももあるのだが三成は居ても立っても居られなくなったらしく早々に座敷に上がり外を油断なく見下ろしている。
外には猫一匹通らない。この界隈は全て貸り切ってあり近隣者はおろか、この宿の者さえ最低限しか置いていない。また、入り口勝手口共に雑賀衆の猛者が脇を固め緊張を一層高めている。
ややして、辻の向こうから目当ての人物がゆったりと現れる。こちらを認めると、笑み綻び手を上げた。
それに視線を合わせると中にするりと入る。着流しを纏いまるで、家中の様な所作で現れた彼を三成は好ましく思った。飾らない変わらない、そこが自分を焦がれさせる原因の一つに違いないと確信した。

「久しいな、三成」

正面に座す徳川は精悍な顔立ちに穏やかな笑みを絶やさない。

「和議の申し入れには本当にびっくりしたぞ。お前とは二度と解り合えないと思っていたから」

と表情を曇らせる。

「秀吉公の事はワシは悔いるつもりはないし、あれ以外の方法は今でもなかったと思っている」

しかしと言葉を続けた。

「ワシはお前から存在理由を奪ってしまった。許されるならばそれを償える機会が欲しい。流石にこの命をくれてやる事は出来ないが−―」

「言いたいのはそれだけか?」

俯いた徳川の目の前に、涼やかな声がかかる。目を上げると、顔異様に近い。足が触れそうな程に。

「言いたいのはそれだけかと聞いている」

顔立ちも三成のそれに間違いないが何処か違和感がある。

「?お前いつもと随分雰囲気が違う」

「黙れ」

ふわりと徳川の傷だらけの手が掴まれる。その指は白く細く女の物の様だ。

「やっと、二人きりになれた。やっと……」

瞳は爛々と輝き、握る手を頬擦りした。
徳川も事の異常さをやっと理解し始めたらしい。

「三成お前おかしいぞ?どうしたんっ!」

急に身体を引かれ、その身に収められてしまう。
それは平生と同じ力いや、それよりも強く荒々しい。

「さっき、償いをさせて欲しいと言ったな。ん?」

徳川は動けない。三成から発される得体の知れない力に気圧される。動いたら斬滅される。斬滅されると形容するより貞操の危機を感じさせるのは間違いだと信じたい。

「じゃあ、償いをして貰おう」

髪に手が移り荒っぽく掻き回される。髪を下ろされ、両手で骨格のしっかりした頬を捕まれ瞳を覗き込まされた。

「私を孕ませろ」

瞬間、徳川は跳躍し部屋の隅に逃げ込んだ。

「無理無理無理だ!!お前は男でワシも男だ」

同時に絶句する。着物を解き始めた三成の胸にあり得ない双丘を見つけてしまう。

「これで、大丈夫だ」

にっこりと笑った表情は今までに見た試しが無い程穏やかで天女のよう。
しかし、その天女の手には何処から出したのか麻縄が握られており今にも徳川を捕えようとしている。

「家康、良いややこを作ろうな☆」

最後に☆なんて付けるなとか、どうして女にとか叫びたい気持ちは一先ず抑え最後の抵抗を試みる。

「三成、考え直してはくれないか?ワシらは仮にも西軍東軍の大将だぞ?償うとは言ったがこの様な形では償えるはずもない」

「五月蝿い!お前は対面ばかり気にして大局を見ようとしない。お前にとって、これ程までの償いの場は後にも先にもない!」

逆効果らしい。アクセル前回の三成は獲物に躍りかからんばかりである。
ずっとお預けを喰らわされた相手が目の前にいるのである。今まで常軌をマシに保てていたのが奇跡な位だ。

「忠勝!忠勝!来てくれ!!忠勝〜!!」

「本多は今刑部と碁打ちの最中だ。何、心配は要らない。私もお前が初めてだ」

ぎしり距離が詰まる。戸口は遥かに遠く、外の景色が見えていた障子も素早く閉められた。退路は絶たれた。グッバイ☆ワシの純潔。いや、甘んじて受け入れてなる物かと涙混じりの顔を上げると、

「そんな表情をするのか。泣き顔も随分見所がありそうだ」

麻縄を手に巻き付け、準備万端らしい。
生きていたいとは思う。
太平の為、世の為、民草の為に。
しかし、今後自分の人生に猛烈な勢いで三成が食い込んで来るとは予想だにもしなかった。そして、まさか人生の伴侶となるとはいやはや世も末である。

「家康、家康、家康、家康、家康家康家康家康ぅううぅう!!」

飛び込んでくる美しい天女。
徳川のこの会談に関する記憶はここでぶっつりと途切れている。


これが後に誉れ高い『上田城の契り』のあらましである。この会談で見事懐妊した三成は徳川にそのまま輿入れしてしまい、事実上西軍は東軍に下る形となる。これで、日の本は一つとなり太平の世が訪れるはずであったのだが度々徳川が何者かに拐われたりふらりと居なくなるものだから、その度々三成が愛しい人の名を叫びながら日本中走り回ったそうだ。
そして、これでお役ごめんと胸を撫で下ろしていた刑部だがどんな職に就いても三成から呼び出しを喰らい、結局軍師の職からは離れられなかったらしい。
また、三成と徳川を結んだあの御守りは巡り巡って独眼竜が手に入れる。それがどのような願いを乞われてどのような結果を生んだかはまた別の話。




ギャグの境目が解らない……今日この頃。

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