君はうたかた 2 一般の教室より、少し狭い部屋の中。 定位置となった、隅の方に寄せてある席を陣取ると、いつものメンバーでいつものように食事を取る。 「ははっ、さっきは二人ともご愁傷様だったね」 「俺じゃねーよッ!こいつがトロットロすっから!」 パンを千切りながら、会話に耳を傾ける。 ちなみに今日の昼飯はコロッケパンとメロンパン。 飲み物は珈琲牛乳。 明日はご飯モノにしよう。なんて暢気にしていたが、全部俺のせいにされるのは堪らないので口を挟む。 「いーや、あれはお前のせいでもある。俺が世界事情について思考を忙しく巡らせている間に、貴様がキビキビと俺を連れて行けば良かったのだ」 「あ?何が世界事情だ。お前の世界にはてめぇしかいねぇだろ。つか世界の前に自分を知れ」 「…上手いな」 畜生。 なんだその言い回し。 なんか無駄にカッコいいではないか。 悶々とする俺に向かって、先程から声を張り上げている男が怒鳴った。 「良いから俺の話しをちゃんと聞け!」 頼むから聞いてくれ…と最後尻すぼみになる男の訴えに、流石に哀れになった俺は男の方を向いた。 子犬のような、しょぼくれた瞳と目が合った。 「で?」 「で、って?」 「だから何、話しって」 「あぁ…だからさ。時間ない時位、真面目に話し聞いてくれって言ってんの」 「お前のそのうるうる瞳は作戦か?クソ、卑怯な」 「……」 必死な感じで訴えてくる男の眼差しに、某CMの震える白犬の姿が重なり、不覚にもキュンときてしまった。 その手を使ってくるとは…小奴、侮れん。 舌打ち付きで憤慨しながら吐き捨てた俺の台詞に、とうとう男は無言で背を向ける。 後ろ向きに座り、椅子の上に両足を乗っけて体操座り。 じめじめした空気が男の方から漂ってきた。 「あーあ。いじけちゃった。あんま宏隆苛めないであげてよ、楽しいの分かるけどさ」 「苛める?何のことだ。ただ俺は、小奴が可愛いかったから許せないのだ」 「………お前らなんか、嫌いだ」 一層、陰鬱な空気を垂れ流す男に俺は疑問符を浮かべる。 もう一人の、俺と会話していた方は苦笑していた。 今更だが、¨いつものメンバー¨の説明と行こう。 まず一人目。 4つ机をくっつけたうちの、俺の正面に座るのがさっき教室に俺を呼びに来た男。 今現在、いじけてキノコ大量生産中のヤツだ。 名前は埼 宏隆(サキ ヒロタカ)。 ちょっと口が悪くておバカだけど、まぁ良いヤツ。 ツンツン立てた赤毛は触ると意外に柔らかくて、くしゃくしゃにかき乱したくなるのに「せっかくのセットが〜」と言ってしょっちゅう逃げられる。 続いて苦笑を浮かべていた二人目は、鳶山 藍(トビヤマ アイ)。 いかにもスポーツやってます。て感じの、爽やかボーイな外見の宏隆より幾分小柄だ。 愛くるしい顔付きだが中身はなかなか。 男らしいというか腹黒いというか。 「謳慈、また寝てるの?」 その宏隆の隣に座っている藍が話しかけたのが、三人目、通称¨ナマケモノ¨。 藍の髪色と同じ薄いハニーブラウンの瞳が、机に突っ伏す巨体を映す。 「今日のデザートはプリンだよ」 「…ん」 常に怠そうで無気力なこの男は、風体に似合わずかなりの甘党なのだ。 藍のおやつ宣言にのそりと顔を上げると、大きな手でもそもそと口にし始めた。 菱沼謳慈(ヒシヌマ オウジ)。 大層な名前を授かっているコイツは俺の右隣に座っている。 しばしの静かなおやつタイム。 藍自慢の手作りお菓子を堪能する、緩い天然パーマが時折視界の右の方でふわふわと揺れた。 [*前へ][次へ#] |