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君はうたかた


一般の教室より、少し狭い部屋の中。

定位置となった、隅の方に寄せてある席を陣取ると、いつものメンバーでいつものように食事を取る。



「ははっ、さっきは二人ともご愁傷様だったね」

「俺じゃねーよッ!こいつがトロットロすっから!」



パンを千切りながら、会話に耳を傾ける。

ちなみに今日の昼飯はコロッケパンとメロンパン。
飲み物は珈琲牛乳。

明日はご飯モノにしよう。なんて暢気にしていたが、全部俺のせいにされるのは堪らないので口を挟む。



「いーや、あれはお前のせいでもある。俺が世界事情について思考を忙しく巡らせている間に、貴様がキビキビと俺を連れて行けば良かったのだ」

「あ?何が世界事情だ。お前の世界にはてめぇしかいねぇだろ。つか世界の前に自分を知れ」

「…上手いな」



畜生。
なんだその言い回し。
なんか無駄にカッコいいではないか。

悶々とする俺に向かって、先程から声を張り上げている男が怒鳴った。



「良いから俺の話しをちゃんと聞け!」



頼むから聞いてくれ…と最後尻すぼみになる男の訴えに、流石に哀れになった俺は男の方を向いた。

子犬のような、しょぼくれた瞳と目が合った。



「で?」

「で、って?」

「だから何、話しって」

「あぁ…だからさ。時間ない時位、真面目に話し聞いてくれって言ってんの」

「お前のそのうるうる瞳は作戦か?クソ、卑怯な」

「……」



必死な感じで訴えてくる男の眼差しに、某CMの震える白犬の姿が重なり、不覚にもキュンときてしまった。

その手を使ってくるとは…小奴、侮れん。

舌打ち付きで憤慨しながら吐き捨てた俺の台詞に、とうとう男は無言で背を向ける。

後ろ向きに座り、椅子の上に両足を乗っけて体操座り。

じめじめした空気が男の方から漂ってきた。



「あーあ。いじけちゃった。あんま宏隆苛めないであげてよ、楽しいの分かるけどさ」

「苛める?何のことだ。ただ俺は、小奴が可愛いかったから許せないのだ」

「………お前らなんか、嫌いだ」



一層、陰鬱な空気を垂れ流す男に俺は疑問符を浮かべる。

もう一人の、俺と会話していた方は苦笑していた。







今更だが、¨いつものメンバー¨の説明と行こう。



まず一人目。

4つ机をくっつけたうちの、俺の正面に座るのがさっき教室に俺を呼びに来た男。
今現在、いじけてキノコ大量生産中のヤツだ。

名前は埼 宏隆(サキ ヒロタカ)。

ちょっと口が悪くておバカだけど、まぁ良いヤツ。
ツンツン立てた赤毛は触ると意外に柔らかくて、くしゃくしゃにかき乱したくなるのに「せっかくのセットが〜」と言ってしょっちゅう逃げられる。



続いて苦笑を浮かべていた二人目は、鳶山 藍(トビヤマ アイ)。

いかにもスポーツやってます。て感じの、爽やかボーイな外見の宏隆より幾分小柄だ。

愛くるしい顔付きだが中身はなかなか。
男らしいというか腹黒いというか。



「謳慈、また寝てるの?」



その宏隆の隣に座っている藍が話しかけたのが、三人目、通称¨ナマケモノ¨。

藍の髪色と同じ薄いハニーブラウンの瞳が、机に突っ伏す巨体を映す。



「今日のデザートはプリンだよ」

「…ん」



常に怠そうで無気力なこの男は、風体に似合わずかなりの甘党なのだ。

藍のおやつ宣言にのそりと顔を上げると、大きな手でもそもそと口にし始めた。

菱沼謳慈(ヒシヌマ オウジ)。

大層な名前を授かっているコイツは俺の右隣に座っている。

しばしの静かなおやつタイム。

藍自慢の手作りお菓子を堪能する、緩い天然パーマが時折視界の右の方でふわふわと揺れた。

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