君はうたかた ヤツ到来 長閑な午後の十分休み。 あと一時限で本日の授業が終わる、そんな時。 事件はやってきた。 けたたましい、ドアを開く音と共に。 「なぁ〜今日行ってもいいだろ?」 「イヤだね。お前が来ると部屋が悲惨な有り様になる」 「んなコトねーよ!」 「あるから言ってるんだ、馬鹿者」 「いい加減諦めれば?」 どうしても俺の家に来たいらしい宏隆と、何としても来させたくない俺。 両者一進一退の膠着状態の中、藍が呆れたように息を吐く。 というのも宏隆がヤツの兄貴と大喧嘩したらしく、暫く家に帰りたくない!とゴネた所から話しは始まった。 友人ならばそんな時手を貸すのが常かもしれないが、何分相手はあの宏隆。 絶対、何かやらかすに決まっている。 かもしれない、じゃない。確定事項だ。 そんなヤツを我が家に招けるか! 「チッ、ケチ臭ぇ奴。じゃあまた謳慈んちに…」 「断る」 現に昨夜、うっかりヤツを受け入れてしまった謳慈の態度が、その未来を有り有りと物語る。 いつもはトロンと虚ろな光を宿す瞳が宏隆の台詞を聞いた途端、お前誰だよって位殺気を放ち、禍々しいオーラが全開だ。 一体何をやったんだ宏隆… こんな生き生き(?)とした謳慈はそう見れるモンじゃない。 はっきりとした口調もかなり珍しいモノだ。 「んだよ…どいつもこいつも」 「藍んトコ行けば?」 「えっ!いや、そのあの…ほら、あれだよ」 「どれだよ」 「ぅあー…もう!とにかく明か謳慈どっちか泊めてくれよッ」 「嫌だと言ってるだろう」 「断固拒否」 尚も食い下がろうとする宏隆を俺と謳慈はズバッと斬り捨てる。 藍はおいでと言ってくれてるのだから其処へ行けばいいのに。 何故か藍の家を嫌がる宏隆に、俺は首を傾げ、謳慈はちらりと藍へ視線を遣った。 「じゃあ野宿でもしてろ」 「ちょ…酷っ!おま…」 ガラガラガラ――ッ!! そんなやり取りを繰りなす、とりあえず平和な午後。 奴は穏やかな空気を打ち破る、けたたましい音と共にやって来た。 「やっと見つけた…」 もの凄い形相で、沢山のざわめきを連れて。 あの日、偶々見つけて餌を与えてしまった虎。 …俺、こんな大きなペット要りません。 [次へ#] |