妄執教師
脅迫
あの日とは、いつの事だ。
突然会社を辞めた仁科。
紛失したファイルの行方。
『先生』というワード。
長瀬 啓一という男。
そして片山と、ある程度付き合いがある人物…。
「まさか…」
「ようやく思い当たりましたか、片山さん」
仁科が不気味に笑う。
「あの子はお前の言う『啓一』じゃない。『孝司』だ!!」
「何を言ってるんですか。彼は『啓一』ですよ」
気付いたら片山は仁科の胸倉を掴み、右の拳を振り上げていた。だが、すんでの所で我に返り、震える拳を下ろす。胸倉を掴む手はそのままに。
「…お前は、あの子を監禁するつもりか?」
「流石ですね。理解が早いようで、私も嬉しいですよ」
「ふざけんなよ!!」
片山は仁科を突き飛ばし、苛立ちを抑える為に煙草に火をつける。
そんな片山の様子を見て、尻餅をついたままの仁科は、実に滑稽だと思った。
こちらにはまだ何枚も切り札がある。早速、その内の一枚を突きつけた。
「片山さん、私が持ち帰ったファイルですが…」
「やっぱりお前だったのか」
「まだ続きですよ、最後まで聞いてください。例えばの話ですけど、あのファイルの内容をその手の情報が欲しい人たちにバラまいたら、どうなりますかね」
「……っ」
「もしその事で会社が多大な影響を受けたら、責任者のあなたは、一体どうなっちゃうんでしょうね」
片山は唇を噛み締めた。仁科は確実に弱い所を突いてくる。
「…脅しか?」
「脅しです」
当たり前じゃないですか、と仁科は暗く笑った。
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