妄執教師 誕生 「……『先生』だと?」 仁科にとって、その言葉が何を意味するのかを片山は知らない。 しかし就職に失敗した彼をこの会社に引き入れたのは、まぎれもなく片山自身だ。仁科の学歴は把握しているつもりである。 片山は元上司として、元部下に厳しくあたった。 「何を馬鹿な事を言ってるんだ。お前はまだ学生気分なのか。夢を見るのも結構だが、現実を見ろ。お前は教師じゃない」 「私は彼専属の教師です」 「仁科、お前は妄執に囚われているだけだ」 「妄執…?」 仁科は何度もその言葉を咀嚼し飲み込む。やがてクツクツと笑いだした。 「良い響きですね"妄執"とは…。今の私にピッタリだ」 「…やめろ仁科っ」 「もう一度言います。私に協力してください」 「……何をすればいいんだ」 今の仁科を怒らせるのは危険だ。片山はあえて下手に出て、仁科がどうするのかを伺うことにした。 「私の愛した『彼』を…長瀬 啓一を連れてきてほしいのです」 「待て、俺はその長瀬という男は知らない」 「ご冗談を。私は知っていますよ。あの日から数回、あなたは彼と会っているはずだ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |