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妄執教師
三人目の狂人
「君は私や片山を狂っていると罵ったが……」
 啓一の舌遣い、匂いの嗅ぎ方、抱きしめ方。そのどれを取っても、この場にいない人間に対する行為には到底思えない。彼を想って愛撫し、彼を想って体臭を嗅ぎ、彼を想ってその身が残したぬくもりの証を大切に抱きしめている。
「その言葉はそっくり君へ返そう。啓一、君も充分に狂っている」
 この場にいない弟を想って抱き寄せる兄の姿を見て、私は普段の毅然とした啓一にはない醜い欲望を感じた。その姿はまるで飢えた獣のようにも思えたのだ。啓一の姿を見ていられなくなった私は一度モニターの電源を落とし、肘掛け椅子に深く腰を下ろした。
「啓一……」
 忘れなければならないと思う。私がたとえ何年もの間彼のことを愛していたとしても、啓一は絶対に振り向かない。
 彼の気を引きたくて弟の孝司をダシにしたが、その結果は散々だ。啓一に憎まれ、彼が求めている者は片山と一緒に消えてしまった。そして私自身も、何か心にぽっかりと穴が空いてしまったような虚無感に包まれている。今までに一度も味わったことのない感覚だ。
「私はどうしたらいいんだ……」
 自分以外は誰もいない狭い部屋に、その声は溜め息と共にこぼれた。

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