妄執教師
新たな部屋
眩しいほどの日差しを目蓋の裏に感じ、長瀬 孝司は意識を取り戻した。
目が覚めた孝司は、何故こんなにも明るいのだろうと疑問に思う。仁科と暮らしていた部屋は、全ての窓が閉ざされた寂しい空間だった。それでも仁科と共に過ごせるのなら、場所なんてどうでもいい。あの部屋のベッドに座って、いつ来るか分からない仁科を待ち続ける。それが今の孝司の生きる全てだった。
まだ覚醒しきっていない、ぼんやりとした思考のまま、孝司は今自分がいる場所を見渡し、違和感を覚えた。
「?」
孝司がいる部屋には畳が敷いてあり、すぐそばには低いテーブルがある。身体を横たえていた布団には煙草の臭いが染みついている。四方の壁にも煙草が原因と思われる染みが、いたるところに浮かび上がっていた。他にも脱ぎ捨てたままの服や、洗い場に山積みになった食器。
あまりにも生活感のある部屋に、一人座り込んだままの自分。孝司の中の違和感が、また一つ大きくなった。
身内に喫煙者のいない孝司にとって、煙草の臭いは悪臭でしかない。嗅ぎなれない臭いに気分を悪くした孝司は、毛布をめくり布団から抜け出すと、眩しい光を放つ窓際へと向かった。
立ち上がるときに右足首に引きつるような痛みを感じたが、特に気に留めることもなく、孝司は足を前に進めた。
短い距離だというのに息が上がり、時々空咳が出る。ずいぶんと掃除がされていないようで、歩くたびに畳からは埃が舞った。
早く部屋中の空気を全て取り替えてしまいたい。孝司は迷わずに鍵に手を掛けて窓を開けようとしたが、真下に下りるはずの鍵はビクともしなかった。
「……開かない?」
よく見ると、鍵は接着剤のようなもので固定されている。今度は両手を使って鍵を下そうとするが、結果は同じだ。長期間監禁され、体力の落ち切った今の孝司では外せるはずもなかった。
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