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妄執教師
真摯な瞳、そして光
「お前は……孝司に何をした……?」
「聞こえなかったのか。私は君の弟を凌辱した。今、私たちが寝ているこの場所で彼を嬲り、弄んだ。まあ、最近では彼の方から腰を振って私をねだっていたがね」
「孝司はそんなことしない……」
 啓一は怒りを込めた拳を振り下ろそうと腕を上げるが、仁科は言葉でそれを制した。
「その手で私を殴り殺すか? それもいいだろう。だが彼の心は戻らない」
「黙れっ!」
「彼は私に対して醜い妄執を抱いている。そして君を心の底から憎んでいる。これが現実だ」
 仁科の眼はもう淀んでいなかった。そこにあったのは学生時代に見た、将来の夢を語る真摯な瞳だった。かつて憧れていた真っ直ぐなまでの眼が、今は啓一をとらえて離さない。彼が語る言葉が全て真実だと、啓一は理解した。
「仁科……」
 間をおいて口にした言葉は、いつもよりもか細いものだった。
「それでも俺は孝司に会いたい……居場所を教えてくれ……頼む……っ」
 啓一は仁科の上から身を起こすとベッドから降り、冷たいコンクリートの床に跪き、仁科に向かって何度も頭を下げた。啓一の屈服する姿を見れば溜飲が下がると思っていた仁科だが、弱弱しいまでの彼の姿を見て胸が締め付けられる。
「やめてくれ啓一」
 啓一のこんな姿を見たくなかった。顔を上げさせようとしても、啓一は頑として聞き入れてくれない。両者とも膠着状態が続く。
「……心当たりはある」
 先に折れたのは仁科だ。その言葉に啓一は顔を上げ「本当か」と尋ねた。
「だがあくまでも心当たりだ。彼の居場所までは私にも分からない。だから……、もう私に弱気な姿を見せないでくれ。君らしくない」
 仁科は啓一の顔を見ずにベッドに腰掛けると、傍らに伸びる足枷を手に取って話し始める。今、啓一の顔を見たら気が狂ってしまうだろうから。

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