[携帯モード] [URL送信]

妄執教師
大事な弟
 仁科の声には悲痛な響きが宿っていた。
 啓一が知る仁科は、かつて共に過ごした学生時代の真面目で誠実な人柄だった。だが今啓一を見つめる視線には、粘着質な熱がこもっていて、見る者の背筋を凍らせるほどの凄味を帯びている。こんな仁科を今まで一度も見たことがない。啓一はその視線を振り払うように、低く吐き捨てた。
「馬鹿馬鹿しい」
「……」
「そんなことの為に孝司をだしにしたのか?」
「彼は出来損ないの模造品だ」
 仁科は喉の奥をククっと鳴らして嘲笑った。
「彼は君の代わりになど到底なりえはしな――」
 最後まで聞いていられなかった。無意識のうちに啓一は仁科を殴りつけていた。長身とはいえ自分よりも華奢なその身体は、拳の勢いをまともに食らい背後のベッドに崩れ落ちる。さらに啓一は倒れた仁科の胸倉を掴み、その顔を何度も何度も殴り続けた。
 その間、仁科は一切抵抗しなかった。
「俺の孝司を馬鹿にするな……!」
 啓一は両腕で仁科を掴み上げ、今にも射殺さんとばかりの視線で彼を睨み、続ける。
「お前にあいつを傷つける権利なんてない。よくも大事な弟をこんな目に……っ」

[*前へ][次へ#]

4/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!