[携帯モード] [URL送信]
潤んで歪む視界に明日は映らない


重い。
覆い被さられた時にそう思って、同時に終わりだなぁと心で呟いた。
セックスの途中に終わりを感じるなんて、まるで気取った小説みたいだ。

ああもう終わるのね、これが最後よ、涙、ほろり。

気持ち悪ぃっつーの。
文学の世界は小綺麗でいいよな。そりゃあ恋だ愛だつうのは感傷の塊だが、こうして股おっ広げてる時にそんなんあったって1ミクロンも素敵じゃない。
中を擦るコイツのちんこが奥まで当たる。何回も何回も。どう綺麗に語っても、単純化していけば現実はこれ。

ケツの中が鈍く痛む。不自然な挿入に目隠しをする、心の快感がないからか。

つまり俺たちは、無理やりな行為を心でだましてたんだ。夢に顔張り付けて現実なんか見えてねえんだ。

真剣な顔でインしてアウトする(今はまだ)我が恋人よ。君は一体、この行為のどこに美しさを見出しているのだ。

「こーへい」
「な…、何」
「汗かき過ぎ」
「んな、ったって…」

あ、もう余裕ねーなこいつ。
俺だって背中にうっすらかいてますけどね。流れるほどではないし、シーツが全部吸ってくれる。スプリングマットに霧散する俺の汗。ああ無情。

不意に、浩平のこめかみから滴が生まれて、顎まで急降下した。あ、と思ったときには俺の右目ちょい上に落下。ぴりりと皮膚が痛む気がした。濃い涙なんだ、きっと。

しょーがねーよな。コイツ俺んこと大好きだもん、多分愛しちゃってんもん。だからこんなに体が熱くなれるんだ。

後ろめたい。俺のために動く体を見ていられなくて、視線をそらした上に瞼を閉じた。

「浩平、起きてみ」
「えっうわ、ちょちょちょ!」

両肩を押し上げて、ケツにいれたまま上下交代。腰をひねると、浩平は素直に声を上げた。

いいよ浩平。その思いっきりえろい顔、高い声、細いけど貧弱じゃない体、額に張り付いた長い前髪、いつも必死でギリギリで、情けないくらい俺を愛してくれるとこ。すげー好きだったよ。

「ゆ、じ…ヤバ、ヤバい!あ!あ!」

俺の腰をガリガリ引っ掻くこいつの胸ん中は、やっぱり幸せとかそういうものでいっぱいなんだろうか。
今俺は、腰を上下させてる自分の姿を、第三者の視点で見てる。もう一個の脳味噌が冷静に問う。なあ楽しいか。そんな格好してまでよ。

わかんねえよ、もう。
わかんねえけど、昨日まで、いやさっきの一瞬までは、確かに楽しかった。あったかい卵の中で二人でいられれば満足だった。
けどあの一瞬だ。理由も原因も見えないけれど、何かがぼろっと壊れちまって、その穴がどうしても埋まらなくて、外の世界が見えちまったんだ。色褪せて乾いた、どうしようもない冷たさに、心が浸っちまったんだ。

「好き…」

好き。だった。やっぱり。

俺ん中に、熱い液体がどろっと溢れて、一筋だけ、俺の背中に汗が流れた。
ああ、完全に冷たい人間じゃなくてよかった。なんて考えた自分を、即座に叱責したけれど、打ち消すことはできなかった。
うっとりした顔で、荒い息をつく浩平。素直で馬鹿で、かわいくて、髪の毛をわしゃっと掴んで、額にキスをした。
背中にゆっくりと腕が回される。

「ゆーじ…」

暖かかった。
この熱をあと何時間後には無くすんだと、思うことが悲しいんじゃない。
彼に同情しているわけでもない。
ただただ、彼といたことの幸せを思って、
俺はいつの間にか、彼にしがみついて泣いていた。


[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!