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ふいに後ろのドアから声が聞こえて、振り返ると、白いDSを右手に掲げた卓斗が入ってきた。


「っ …花木!」

よりにもよって何故卓斗なのか、浪は自分の運のなさを呪う。

どんどん近づいてくる卓斗。
ついに浪の目の前まで来てしまった。長身の卓斗を前に、160cmの浪は見上げる形となった。

こんな至近距離で話すのは初めてで、浪はうろたえてしまう。おまけに卓斗は例のDSを持って、表情の読めない静かな瞳で、浪を見つめている。
おそるおそる瞳を合わせた浪は、華やかで優しい雰囲気を持つ、いつもの表情とはまったく違う卓斗から瞳が離せなかった。
タクトそっくりな卓斗の顔立ちは、近くで見ても男らしく美しかった。
夕日に反射して茶色の髪の毛がきれいだ、なんて現実逃避をしたくなってしまう。


「きしがみ?」

ずっと沈黙したままの浪に、卓斗が声をかけると、極度の緊張から質問を忘れてしまった浪は慌てて、

「………中、見たりした?」


弱弱しくそう問う。
いつもクラスの輪の中心にいる時の陽気な表情ではなくて、どこか面白がった瞳でこちらを見つめ、卓斗はにっこり笑う。
その表情で先ほどの問いかけの答えに気づくと、浪は真っ赤になってうつむき、1歩後ずさった。

「俺、あの時店員やってたんだ」

下がった分1歩踏み込んで、唐突に話し出した卓斗の言葉に、わけが分からなくて浪は必死に記憶を遡った。
やがてたどり着いた先は、

「……フラワーツリー?」

発売日に並んだおもちゃ屋だった。


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あきゅろす。
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