5

次の日、暗い気持ちで教室のドアを開けると、飛び込んできたのは、卓斗を囲むクラスメートたち。
その賑やかな話し声に、いつ「そういえば昨日タクトにそっくりなキャラクターとすれ違って――」なんて言われやしないかと、気が気ではない浪はつい聞き耳を立ててしまう。
それからも、休み時間に入り、友人が卓斗の周りに駆け寄る度に、目を向けてしまい、おかげで今日は5回も卓斗と目が合ってしまった気がする。

あんなことがあった後だから余計にバツが悪くて、露骨に逸らしてしまうけど、長い前髪とメガネのお陰で卓斗には気づかれていないはずだ、と浪は思う。


ナミといえば――ハートのジュエルだったよな…。

ゲーム中で、プレーヤーがお城のお姫様の恋のキューピットをする際に必要となる、ハート型のピンク色の宝石を、例のナミが持参していたのも不思議だった。
戦闘中に使用するだけで、こころゲージが満タンになるそれは、1つの冒険で1つしか手に入らない超レアアイテムで、とても強いモンスターの出るダンジョンのどこか奥深くに隠されていると噂になっていた。浪のゲーム仲間うちでも手にいれた者は未だいない。

そんなレアアイテムをすれちがい通信で他人に渡してしまうなんてするだろうか。西山にそのことを話すと、とても驚いた顔をして、やれどこですれ違った誰だとか、俺にも見せてだとか散々言われたけれど。



---

結局、帰りのHRが終わってもナミを作ったやつは現れなかった。
少しの安堵を覚え、浪は帰り支度をする。教室から出る際、後ろで友人たちとたむろっている卓斗をチラッと見たが、何も変った様子はなく、むしろいつもよりはしゃいでる感じさえした。


<<*前 次#>>
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!