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《 1人すれ違いました!▼ 》
その日の帰り、地元の駅を降り、今日の成果を確認するためチラっと開いたDSに、そのメッセージ表示を見つけた浪は、いてもたってもいられなくなって、近くの喫茶店に飛び込んだ。
学校ですれ違い通信の出来ない浪がとった手段は、通学時間を利用するというものだった。
幸い高校へは少しばかり遠いので、メジャーな乗り換え駅を過ぎ、車両に同じ制服がいなくなってから、通信機能をオンにする。そうして学校のゲーム仲間には大きく劣るが、地道にすれ違い人数を稼いでいた。
青いマフラーを片隅に置き、頼んだホットコーヒーをテーブルに配置してキッチンホールへ下がっていく店員を待つこと5分。逸る気持ちを抑えきれずDSを開く。
いつもこの瞬間はとてもドキドキする。どんな人だろう。乗り換え駅から地元の駅まで浪が乗るのは、5駅。その5駅の中にロマンが入っているような気がするのだ。
《 ナミ Lv20 賢者 ▼ 》
コマンドに表示された名前に少しドキっとするが、いつものことだ。きっと同じ名前の女の子に違いない。
次いで浪が宿泊客の待つラウンジへと移動した瞬間、思わず「うそだろ」と口からこぼれた。
現れたのは、黒髪で長めの前髪、ちょっと眠たそうなたれ目の瞳、のんびりとした雰囲気をまとう中肉中背の少年。装備品は、白いトレーナーとジーンズ、それに青いマフラーと銀縁のインテリメガネ。
どれもが、浪に馴染み深いものだった。
それに男にしては珍しいナミという名前。職業を見ると、17歳高校生となっていた。
「…これって」
浪を知る誰かの新手のいやがらせかもしれないが、自分も同じことをしている。
すれ違い主が自分を知っているということは、高確率で卓斗も知っているということだ。
今日すれ違ってしまったから、このナミの作り手の元には、タクトが訪問している。恐れていたことが起きてしまった。
浪はこれ以上ノラクエをする気分になれなくて、それからすぐにDSを閉じてしまった。
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