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「で、とりあえずホームセンターでいい?」
野上の愛車はVWのゴルフ。キーを回すと、小気味良いエンジン音が響いてくる。
アウトドア好きのこいつに相応しいトランクが大容量の車なので、正直野上が付き合ってくれて良かった。
「ああ。ペット売り場の店員に聞こうと思って」
「それならへーき!猫好きのやつに俺聞いてきたから」
「今日か?」
「ん、社内のやつだから」
ふーん。社内に猫好きなんていたのか…。
野上に促されるまま、とりあえず発砲スチロールと新聞紙でこさえていた即席トイレは、猫砂と猫トイレに。猫缶にカリカリ。爪とぎ。餌入れなどを物色していく。ねこのおもちゃにふわふわしたボールとねこじゃらしを買ったのだが、果たしてあいつがじゃれてくれるのか一抹の不安を覚える。
なんか自分は人間だと思ってそうなんだよな……。
ケージはあの狭い部屋には却下になったが、近々獣医の方に診てもらわなければいけないだろうから、キャリーは1つカートに入れる。ペットフロアをでかいカートを引きながら、2人で眺めていくと、何かに気づいた野上が足を止めた。
「キャットタワーか…」
高さ2mはありそうな巨大な柱が2本伸びたハウスつきの天井つっぱりの物がでかでかと展示されていた。その隣には据え置きの魚の形をした物や、ネズミのおもちゃがつられている物もあり、種類は様々だ。
「良さそうじゃない?」
丸くあいたハウスの中には、ナマイキそうな顔つきの猫のぬいぐるみが入っていた。その表情がねこに似ている。
「あいつのことだから、高いところから見下しそうだな。」
にしても、うちには背の高い家具がない。キッチンの冷蔵庫ぐらいか。
ねこ的には、物足りない家だろう。
躊躇している俺を見て、「結局、南田が面倒みるの?」とでもいい言いたげな野上の視線に、「飼い主が見つからなかったらな。」と返した。
これもなにかの縁だろとは、心の中でつぶやいた。
結局、キャットタワーはまたの機会にすることになった。
飼い主が見つからないとも限らないしな。
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帰りの車の中、トランクにびっしり詰まった猫グッツを見て、
「すごい出費だな、給料飛んだ。」
なにやら嬉しそうに野上が言う。
「ああ、キレイに飛んだな」
給料日まであと1週間。ぱんぱんになった財布から、レシートを抜くと、とたんに心細くなる。水曜日は惣菜、木曜日は冷凍食品が半額セールだったなと思いながら、俺は相槌を打つ。
車を近くのコインパーキングに入れ、トランクの荷物を家へと運ぶ重労働、家に付く頃にはほとほと疲れてしまった。
ガチャっとノブが回る音がして、中に入ると、玄関先にちょこんとねこが座っていた。
「にゃー」
「お腹空いたのか?遅くなって悪いな」
とりあえず野上と手分けして、買物袋を玄関に下ろしていく。ねこはビニール袋を物珍しそうに、ふんふんしているので、その隙にキャットフードや猫缶を吊り戸棚へ、猫トイレや猫ハウスを設置していく。
「とりあえずこんなもんか」
完成したばかりの猫砂の上にねこをおろすと、一瞬きょとんとしたねこが、ちょいちょいっと手についた砂を払いのける。ぐらぐらする足場に不満のようだが、砂から降りることはなかった。
「すぐ覚えてくれると良いんだけどな」
買ったばかりのエサ入れにカリカリを乗せ、やっと一息つくと、冷やして置いたエビスで野上と二人、晩酌が始まった。
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