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定時きっかりに上がった俺は、とりあえず私服に着替えるという野上を俺の家で待つことになっていた。

…どうか、汚れていませんように。

祈るように鍵を差し入れ、自宅のドアをゆっくり開くと、朝片付けたダンボール入りのゴミ袋が玄関にポツンと置かれているのを確認して、ほっとして中に入った。


さて、あいつはどこだ?

台所にはいないようだけど……っと、寝室に目を向けると、俺のベッドの上で、例のフェイスタオルを幸せそうにふみふみしているねこを発見した。

なんだあれ。

一心不乱とでもいうのだろうか、タオルの上に乗り、ここにいても聞こえるような大きな声でゴロゴロ言いながらふみふみしている。
そのあまりのかわいさに、思わずガクっと物音を立ててしまったら、ねこも勢いよく俺の方に顔を向けた。そのハッっとした顔に、バツが悪くなって「よう」と声をかけると、「にゃっ」っと短く鳴いて、タオルなんか見向きもしてませんけど、と言いたげなすまし顔ですばやく俺にかけより、痛烈な猫パンチを繰り出した。

「はいはい、照れない照れない」

そんなねこをあやしながら寝室へ入り、フェイスタオルをつまみあげる。

「これそんなに気に入ったのか?」

未だ腕の中で、そんなタオルどうでもいいですけどって顔をしている。ねこは不思議だ。





「お前どこにも連絡いってないってよ?」

すまし顔でスーツ姿のままの俺の膝に飛び乗ったねこに、フェイスタオルをかけてやりながら声をかける。耳を澄ますとタオルの下でゴロゴロいう声が聞こえる、ほんと素直じゃないやつめと自然に口元が上がってしまう。
警察と近くの保健所、それと駅前のイタメシ屋に迷子猫の連絡を入れたが、どこも不発だったのだ。俺も見たのは昨日が最初だし、この辺のねこじゃないのかもしれない。本人は、ゴロゴロ言いながら俺のスーツに爪をたててバリバリ……

「ちょっ お前ヤメロ!これは俺の一張羅のスーツだっつーの!」「にゃっ!」

「南田おまたせ!」


ねこと攻防している頃、エビスの箱を掲げて私服姿の野上がやってきた。


「なんだ、まだスーツかよー」

「悪い、今着替るからこいつよろしく」

ズボンに引っかかっていた爪をはずして、座布団に座った野上にねこをパスすると、ようやく野上を視界に入れたねこが、ふんふんと野上の髪の毛の匂いをかぎだした。
やっぱりな、あのふにゃりとした猫毛はねこにもそう見えるみたいだ。

俺が着替えをしている間中、野上はというと面白がってさせるがままにさせていた。


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