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築20年は経過しているであろうアパートの階段を、ねこを抱えて駆け上ると、手前から二つ目の扉で立ち止まる。日当たりは若干悪いが、駅から徒歩6分、1kで6万8000円は都内ではそうないに違いない。ここが俺の家だった。
オートロックなんてしゃれたものはついてないので、右手に抱いたねこを玄関先へおろしたあと、左手で鍵を閉める。


「あっお前!」


ねこはキョロキョロと辺りを伺っていたかと思うと、一目散に、ちゃぶ台に乗っているマグロの刺身(さっきの晩酌の残りだ)にありついた。


俺でさえも、半額シールの更に20%OFFになった時しか食べられないというのに…運動靴を脱ぎ捨て、コンビニの袋を持って(中身は猫缶だ)ようやくちゃぶ台までたどり着くと、まぐろのパックは既に空になっていた。
こうしちゃいられない。あじのたたきとししゃもを冷蔵庫の上に乗っているレンジの更に上へ移動させると、ジロリ、ちゃぶ台の上で口周りを舐めているねこを見下ろした。


「まぐろうまかったか?」

「にゃあ」


今までのにゃあもかわいかったんだが、今までで一番かわいらしい声だった。更にいえば上目使いだ。

「・・・・・・うっ」

怒ろうとしていた決意が鈍りかけると、追い討ちをかけるかのように、俺の足元に擦り寄ってきたねこが、あろうことか、ぴょんと、自ら俺の腕のなかに収まった。

くそっ





戦意を喪失した俺は、腕の中にいるのをこれ幸いと、台所から濡れ布巾を持ってきて、フーフー言うねこと格闘しながら隈なく足の裏を拭いてやった。



発砲酒を持つ左手には3箇所ほど赤い噛み跡が残っている。
やつはというと、塗れた手足をせっせと舐めるのに必死だ。いい気なもんだ。


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