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「はぁはぁ・…」


更に陽の落ちた路地は、閑散として若干切れかかっている電灯だけでは心もとない。イタメシ屋の営業も終わったようで、勝手口の電気も消えていた。


やっぱ、いねぇか……
記憶に新しいねこの顔が、どれだけ不安そうな顔だったか、と今ならわかったのに交通事故にでも巻き込まれたら――





「にゃあ」


さっきの声だった。
思わずそちらへ顔を向けると、俺の立ちすくむ路地のちょうど花屋とイタメシ屋の間の薄暗い通路から、ねこがひょっこり顔を出した。

「っお前!」

そろりとしっぽを動かし、物陰から完全に姿を現した。
かぎしっぽが不安げに揺れている。多少釣り目に見えるアイラインのくっきり入った丸い瞳は、ブルーグリーンで、つややかなシルバーの毛並みに、ほっそりと長い手足、見れば見るほど美しいねこだった。
特に今日は、満月の光に照らされて、毛並みが一層際立ってみえる。

意を決して、その少し膨れ上がった背に手を伸ばすと、一瞬ビクッとしたねこは、そろっと手の方へ目線を傾けてから俺に目を合わせた。

良いってことか?
恐る恐る人差し指と中指の甲でなでてみる。初めて触れたシルバーの毛並みは、想像通り柔らかくて気持ちがいい。ねこが動かずじっとしていることをいいことに、おでこの方まで撫で回す。お、今ちょっと嫌そうな顔をしたな。
撫でながら俺はねこを観察する。どこも汚れてなんかいない。こんなきれいなねこだ。誰かの飼い猫に違いない。首輪はないけれど。



「お前、迷子なんだろう。とりあえず一緒にくるか?」


撫でていた手を止め、しゃがんでねこの目線に合わせると、ねこはしばらく俺を眺めたあと、短く


「にゃあ」


と鳴いた。
それで十分だった。


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あきゅろす。
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